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一
ここ最近は、夜の時間帯が続いている。
元々は夜に寝るアリスだから、はじめはこれ幸いと店を閉めた後、長い夜をぐっすりと寝て過ごしていた。
久しぶりに十分な睡眠が取れたおかげで、目覚めはとても気持ち良いものだったが、目が覚めても外は真っ暗だった。
そのままベッドの上でごろごろと本を読んでみたり、軽くブランデーをいれたホットチョコを作って飲んだりと、それなりに落ち着いて楽しい夜を過ごしていたのだが、余りにも夜の時間帯が長すぎる。
さすがのアリスも寝過ぎて頭がぼおっとしてくる前に、夜の街にでも出掛けることにした。
冬の夜の街。
静かな住宅街を抜ければ、夜に開くお店や街灯は明るく意外と賑わっている。
粉雪がちらほらと舞い出せば、その雪にも明かりが反射して暗い夜空を明るいものにした。
「綺麗・・・」
雪も綺麗だったが、街中に植えられた木々に施されたイルミネーションもまた美しい。
星や雪の結晶のモチーフの間で、色とりどりのライトが点いたり消えたりと目を楽しませてくれた。
そうだわ、クリスマスだわ。
飾られたツリーを見て思い出す。
時間の狂ったこの世界では、元の世界のイベントごとをついつい忘れてしまいがちだが、この光景を見て思い出さない訳がない。
そういえば、クローバーの塔でもクリスマスをやるんだと領主が駄々をこねていたそうだから、クリスマスという催し事がこの世界に無い訳ではないらしい。
日にちも無い曖昧な世界で、いつやるかも未定なクリスマス。
つくづく謎多き世界だ。
それでも、こんなに楽しげな街のイルミネーションを見てしまっては、便乗したくもなる。
アリスは当初の買い物に加えて、他にも色々なものを買い揃えるために、白い息をこぼしながら街を歩き回った。
アリスの計画はこうだ。
まずは各知人に送りたいプレゼントを用意する。
それが終わったら、ちょっとしたおつまみ程度の料理とデザートを各領土分用意する。
そして、全ての用意が出来上がって、次の時間帯が昼だったら遊園地、夕方になったらハートの城、夜になったら帽子屋屋敷をそれぞれ訪ねる予定だ。
塔は申し訳ないけど、全部訪ね終った一番最後の予定だ。
もしくは、ナイトメアが開催したいらしい、塔のクリスマスに合わせても良いかもしれない。
本当は、どこかに集まってみんなでわいわいできれば良かったが、あいにく相手同士がみんな仲が良いわけがなく、むしろ険悪になる可能性の方が高い。
呼べるほどアリスの家は広くないし、他領土の役持ちを勝手に招待していたら、ここ、クローバーの塔がいくら中立だとしても波風が立つかもしれない。
アリスとしても、お世話になっているこの領土の人達に、そんな迷惑をかけるつもりはない。
だから、冬の領土に住んでいるからという理由を携えて、季節がそれぞれ違う彼らのところでも、自分がサンタ気分で行けば良いと思ったのだ。
どうせ狂った世界なんだから、春や夏や秋にクリスマスをしたって何の問題も無いだろう。
アリスは計画を立てて、まずはプレゼント作りから取り掛かった。