Are you Pet ?


言いつけてクダサイ。





「セクハラ禁止」

「・・・・・」

いの一番に書いた項目を読み上げればどことなく不満げな顔をするペットに、みかんを渡しつつ睨みを利かせれば視線をちょいとこちらに向ける。

「飼い主の言い付けは守るんでしょ。・・返事は?」

「・・ハーイー」

「よし」

「・・・・・」

取りあえず言質はとったと頷きつつ、みかんをその手に乗せる。

「寝室に無断で入らない」

「・・ハイ」

「管理人の仕事を手伝うこと」

「ハイハイ」

「家事は私がやるから」

キョトンとした瞳が一度瞬きをした。

「言ってくれれば俺もやるけど」

それから皮をむいたみかんを一房ポイッと口に入れる。
もぐもぐと食べながら次の一房を指先で外している。

「ほれ」

「・・どうも」

何故か渡された一房を拒否する理由も無いので受け取って食べれば、それは思ったより甘さは低く、酸っぱさに口の中が少し窄まる感じがした。
思わずみかんを寄越してきた相手を見れば、しれっとした顔で続きを食べている。

「・・・・、ハズレだったな」

分かっていて食べさせたらしい。

「もらいものなんだから」

文句言わない、と伝えれば綺麗な紫色の瞳がすいっと横にそれた。
昨日と今日の朝食の様子を見ていれば嫌でも分かる。
ユーリという名の・・・このペットは甘党だ。
それも、相当。

「・・・あのばあさん、みかん渡してどっか行っちまったけど・・」

「ここのアパートに住んでいるわけじゃ無くて、ご近所さんなんだって」

あれから帰って来ないけどここに住んでるわけじゃないのかと聞く相手に、管理人の引き継ぎノートに書かれていたことを思い出しながら答える。

「前任者が築き上げたご近所付き合いも大切だからね」

「はいはい」

「じゃあ、みかん食べたら早速だけど掃除からよろしく」

「りょーかい」

朝食後に取りあえずペットとしての心得と称していくつかのルールを伝えていれば、いつの間にか窓口を開ける時間が迫っていたことに気が付いた。
パタンとまだ最初の方しか埋まっていない薄いキャンパスノートを閉じる。
すっと視界に伸びた腕が視界の端のマグカップを奪っていく。

「あ、いいって。私が片付ける」

「・・洗濯機、鳴ってるけど?」

「!・・・あー・・ごめん、よろしく」

さすがに自分の下着も含まれている洗濯は任せられないと、やむなく洗い物を任せれば頭上に乗せられた手がぽんぽんと軽く跳ねる。

「飼い主サマのおおせのままに」

ふざけた言葉につられて見上げた先で何だか楽しそうに笑うユーリは、二つ分のマグカップを片手に持ったまま長い髪をふわりと泳がせてこちらに背を向けた。

「・・・・・」

シンクへと向かい腕まくりしたシャツの袖からは、細くともやはり女性とは違うしっかり筋肉の付いた腕が覗く。
髪は長くってこんなに綺麗なのに何か変な感じがする。 ・・とか口に出したら怒られるだろうか、それとも本気かどうかはともかく拗ねてみせるか。
どんな反応をするか楽しみだと思っている自分は、この短い時間で相当このペットに魅了されてるらしい。
危ない危ない。
頭を振ってピーピーと高い電子音を鳴らす洗濯機へと足を向けるべく立ち上がった。




◆アトガキ



2017.9.3







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