1::とある朝のヒトコマ
一
「グレイ兄さん、今日も珈琲だけ?」
「ああ」
「全く、朝はちゃんと食べないとだめよ」
珈琲片手に新聞を読んでいるグレイに、アリスが口を尖らせて抗議する。
仕事はきっちりしっかりこなす兄も、生活面はちょっとばかりずぼらになりがちで。
だから、自分が何とかしてあげたいのに・・・。
「それより、アリス・・時間はいいのか?」
兄であるグレイが、ちらりと見上げた壁掛け時計の針は、アリスが家を出る予定の時間を指していた。
「いけないっ、バスが出ちゃうわ。じゃあ、兄さん先に行くわね。飲み終わったカップは流しにつけておいてね」
「ああ。くれぐれも気をつけて、変な・・」
「変な輩には声をかけられてもついていかない、しゃべらない、でしょ。もうすっかり覚えちゃったわ」
ふふと得意げに笑うアリスだったが、そんなアリスを見ているグレイから、新たなフレーズが追加される。
「それと、あまり走るんじゃない」
「あら、どうして?」
今の今までも、朝ごはんの片付けに、顔を洗いに着替えにと、家の中を駆け足で移動していたのに、今更だ。
不思議に思いながら、扉に手をかけて聞き返すアリス。
グレイはといえば、寝起きも相まって険しいその視線の先には、アリスのスカートがあった。
短すぎるから、走ってめくれたらどうするとその目は訴えているが、当然ながらアリスには伝わらない。
きょとんとするアリスの視界に時計が入る。
「もう、こんな時間!本格的にやばいわ。じゃあ行ってきまーす」
言ったそばから、軽やかに走っていくアリスの後ろ姿を、グレイは片手を振りながら嘆息で見送った。
スカートからのぞく健康的な素足。
ニーソックスまでの短い部分とはいえ、妙な輩に見られてはいないだろうか。
妙な輩というか、自分以外の男が見ることがもう許せそうにない。
今度アリスがいない間に、こっそり制服を少し長めのサイズのものに替えてしまおう。
少しだけ裾を長くするだけだから、気づかないだろう。
帰りしなに寄る店に頭の中でチェックをして、グレイも仕事に出掛ける支度を始めた。
◆アトガキ
2012.12.1
現代風味っぽい世界パロディ。
「グレイ兄さんと私」開幕。
両親は他界していて、グレイの稼ぎで二人暮らし、という設定です。
薬屋アリス「小さく淡く瞬く星」でグレイは兄さん役に抜擢されたので、
もういっちょ別パターンで書いてみたくなりました。
短いのでこちらに格納。
なんというか、ただひたすらに過保護な兄です。
今回は、妹の絶対領域を心配する話。
思いついたら増える、かもしれない。