売店にも行きたいが先に今日の流れを知っておけば鶴丸様方の悪戯回避も楽にできるのではないかと、本日のタイムテーブルを確認しに行けば運がいいことに午前は書類事務だった。午後の32番街見回りのことは一旦忘れよう。外に出る前に売店でお菓子を入手すればいいだけの話だ。
書類事務の仕事で鶴丸様と一緒になることはほとんどないし、そもそも書類によっては刀剣男士様には任せられないものもある。仮に手伝いをお願いしたとしても、大概へし切長谷部様や山姥切国広様、黙々と作業をこなすのが好きだという刀剣男士様が席についていることが多い。

「あ、きみ今手は空いてるかい」
「え?あ、どうかされましたか山姥切長義様」

よし午前中は安泰だと思っていれば後ろから声を掛けられて、振り向いた先には銀髪をさらさらと揺らして少し焦った様子で駆け寄ってくる刀剣様が一振りいた。その駆け足に合わせて翻る灰色がかったマントの裏から瞳と同じ青い色が覗いている。

「悪いが、偽物くんのところの手が足りなくてな。ほら包帯を巻いた鶴丸国永と一緒にいるあいつだ」
「”包帯”の鶴丸様ってことは医療班・・、演練の補助ですか?」
「いや、手合わせでちょっと熱くなった者がいてな。っときみの方の仕事は大丈夫なのかい?」
「ええ、急ぎは他にもできる者がいますので」
「・・そうだな、確かに今日のメンバーなら大丈夫そうだった」

速足の山姥切長義様について少々駆け足になれば、気が付いたように少しだけ歩調を緩めてくれる。山姥切国広様と相対するときはつんけんする態度をとることも多いが、それ以外の対応は意外と丁寧で仕事も真面目だ。
政府にいたことも多いために書類事務も手慣れたものだから、担当するメンバーのことも知っているのだろう。

「おい、お前連れてきてやったぞ。・・悪いな、俺は別の用事を頼まれていて」
「え、それならどうぞそちらに行ってください」

場所を教えてくれれば一人で来たがとは思ったものの、これで山姥切長義様はプライド高く仕事はきっちりと行う刀剣男士様だ。伝言で済ませることせずに最後まで見届けて、更に山姥切国広様に一言言うために一緒に来たのだと思えば納得した。

「助かる。・・あと、この無口のコンビはどうにかならないか?意思の疎通が難しいと何故か俺にも苦情が来る」

こうしてつっかかること含めて山姥切長義様は何かと口や手を出してしまうものだから、彼らとのコミュニケーション係にされてしまっているらしい。山姥切国広様に聞かれないようにとひそめた声でやれやれと呟いてそして足早に去って行く背中を見送る。
さて、お次はこちらだ。

「山姥切国広様と”包帯”の鶴丸様、大丈夫ですか?」
「・・ああ」

散らかった医療道具を箱に収める山姥切国広様の隣で”包帯”の鶴丸様が黙々と負傷した刀剣男士様方に手当てを施していく。手入れをしなければ治らないのだが多少の傷の場合は、これくらいで手入れの時間を取るのは資源や時間の無駄だと思う者、手間取らせるほどではないとする者や続けて出陣の任務があるからと拒まれることが多い。
軽傷以下は自己判断に任せてはいるが血が出る傷口をそのままにはしておけないので、医療班に軽い手当をしてもらうのだが。

「わぁ、これは随分とまた派手にやりましたね」
「そういう日も、あるからな」

手当ての終わった刀剣男士様の背中をポンと叩いて送り出した”包帯”の鶴丸様が静かに答えてこちらを向く。その金の目がじいと肩から爪先までを辿った。

「ああ、そうか。とりっくおあとりぃと、って言うんだったな」
「え」

話の流れが見えないが続けて唐突に放たれた言葉に動きが止まった。

「きみは、まあ多すぎて悪いことは無いからな」
「いや、何言ってるのか分からないんですけどって何で急に包帯持って近づいてくるんですか、私どこも怪我とかしていないんで!あ、この爪ですかこれは”ヨーグルト”の鶴丸様と”白墨”の鶴丸様がですね、面白がって」
「・・見ればわかる」
「ちょ、ちょっ」

静かにぐいぐいと来る”包帯”の鶴丸様に腕を取られたかと思えば袖をぺろりとめくった下にくるくると包帯を巻かれてしまった。しっかりとめた包帯をじっと見て、用は済んだとばかりに袖をもとに戻してくれる。

「まあ、そういう日もある」

山姥切国広様が同情したように青い目を向けてくるが、その後は実に何事も無かったかのように医療班に混ざって次から次へと訪れる負傷者の応対をするばかりだった。





→ お菓子を買うことはすっかり忘れていた。
  取りあえず食堂でお昼を食べよう。



→ お菓子を買うことはすっかり忘れていた。
  外に出てお昼を食べるついでにどこかでお菓子も買おう。











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