気付けば昼休憩の合図が出されて、もうそんな時間かと思えば急にお腹が空いて気がする。周りの刀剣男士様方もすっきりした様子で手合わせを終えて解散していき、山姥切国広様と”包帯”の鶴丸様とは片付けてくるとその場を別れた。
お昼は何を食べようかと歩き出して、お菓子を買っていないことを思い出した。早めに切り上げられたら事務仕事に戻る途中で売店に行ってお菓子を買おうとしていたのだが、思ったよりも手が空かなくてすっかり忘れていた。
いいや、もう外に食べに行って何かついでに外で買って来よう。どうせ今売店に行ったら混雑に巻き込まれるし間違いなく集まっている鶴丸国永様にももれなく絡まれそうだ。

「お、こんなところにいたのか」
「”白詰草”の鶴丸様・・」

となれば裏から街に出るかと裏口に向かえば、よっとばかりに片手を上げて笑顔を振りまく刀剣男士様が一振り。
内心、うっと思いつつも声かけられては回れ右するわけにも行かず。いや、”白詰草”の鶴丸様相手にそんなことをした日には、次に何が起こるか予想が出来なくて怖い。可愛らしい野花のあだ名をつけていつも笑顔を振りまくこの鶴丸様は意外とえげつないし胡散臭い。
正直言って、苦手だ。

「そういう顔をしてるともっといじめたくなるって言ったろう?」
「すいません、正直な顔を持っているもので」
「そうか。そうだな、そんなきみが俺は好きだ」
「左様ですか」
「つれないなぁ。・・今日がなんていう日か知っているだろうに」

そろそろ逃げ出したい。ダッシュでその背後にあるゴールという名の裏口まで行けないだろうか。いや無理だろうな、この距離では捕まるだろう。

「うんうん考えているところを見るに持っていないな、きみ。そら・・とりっくおあとりーと、だ」

こちらからは3歩くらいの距離を1歩で近づいて、何が楽しいのかにっこりとした顔を主無理近づけて避ける間もなく耳元で囁かれる。

「う、くすぐったい。それやめてくださいって言ってますよね」
「そんな顔をされたらまたやりたくなるのが俺の性分ってやつだな」
「”白詰草”の鶴丸様の持つ傍迷惑な個体差ってやつですね、理性で抑えてください」
「俺だけではないと思うんだがな。ああでもきみが俺を調教でもしてくれるのか?そいつはちょっと興がそそられるな」
「しません」
「なんだ、残念だな」
「用がないならお昼を食べるのでこの辺で」
「まあ、待て待て」

さようならとすり抜けようとした腕をしっかりつかまれる。空いたもう片方の手で袂を何やらごそごそと漁ったかと思えばカランという音と共に四角い缶が現れた。

「あったあった。そらきみ、これをやろう」
「ドロップス・・」
「おっとタダでやるのはつまらんな」

お菓子をくれと言った相手から何故かお菓子をもらいそうになったが、これは受け取った物がちだと伸ばした手からすいと缶が避けられる。やっぱりあげる振りしてってやつだろうかと胡乱気に見ていれば、缶の蓋を開けて中を覗きカラカラと振って一粒コロンとその手に出した。
色は白。なんの味だっただろう。

「お、これいつも何味だか忘れてしまうんだよな」

こちらの心を読んだかのようにウキウキした様子で手のひらの飴を眺め、かと思えば「薄荷だったかな?」と首を傾げながらぽいとその口に含んでしまった。やはりあげようと思ったがやっぱりやーめたってやつなのだろう。
そろそろ昼休憩の時間も惜しい。用が無いのなら今度こそこの場を離れようと視線を裏口に向けた視界がぶれる。

「?!んっぷ」
「薄荷じゃないな、なんの味だ?」

ぐいっと引き寄せられた腕に驚いて見上げればしっとりとしたものが口を覆った。驚いている内に生暖かい舌が口唇を割って入り込み、開いた隙間からころりと受け渡されたのは多分先程の白い飴で。
くちゅと鳴る水音と共に離れていったその顔を茫然と見上げれば何てことない顔で、自身の唇をぺろりと舐めている。

「やっぱり俺には分からなかったな。分かったら教えてくれ。ほらこれもやろう」

何事も無かったかのように話を続け、こちらの手に強引に飴の入った缶を持たせたと思えば”白詰草”の鶴丸様は笑顔でその場を去って行った。口の中には何の味かは確かによく分からないが、果物のような甘い味のする飴が残されている。
どこか呆然としながらも裏口を出てふらっと目の前のラーメン屋に入り、カウンターで猛然とラーメンをかき込んだ。





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