仕事中は意外にも絡まれなかったが、今は昼休憩。変に動き回って絡まれたくはない。 隅でこっそりひっそり大人しくしていようと、そこそこ広い食堂の入り口からは遠い端っこで受け取った本日のランチセットに向かって「いただきます」と両手を合わせたところでふっと影が差した。嫌な予感と共に振り仰げば、テーブルを囲むように白い人影がひぃ、ふぅ、みぃ、よっつ。 「ここにメニュー表はないですし、受け取り口もここではありませんよ」 「心配いらない、俺たちは今日は非番で早めに昼食は済ませてあるからな」 「そうそう、やりたいことがあってな」 「へ、へえ・・・、でしたらそのやりたいこと、とやらをやりに行ってどうぞ」 先に口を開いたのが自身の衣の丸い飾りをいじって少し先を細くしている”玉子”の鶴丸様で、同じように丸い飾りをいじって四角くした”角砂糖”の鶴丸様が続けるが、目に見えているだろうか私はこれからお昼である。 私はご飯を食べるのでどうぞ行ってきてくださいと片手をすいと入り口の方に向けて促してみたが、誰も動かないどころかその手をすかさず取られた。しまった、この流れはと思ってももう遅い。 「はは、見てくれ。手が早い”俺”がいるらしい」 「きみ、これ・・」 最初に手を掴んだのは自身の紋である鶴に2本の角を書き足してしまった”牛乳”の鶴丸様で、手入れの度に綺麗になる紋に書き足したりたまに丸いぽんぽんを牛柄にしたりと最早”牛乳”というより”牛”の主張が激しい鶴丸様である。 ”牛乳”の鶴丸様が掴んだ手の指先をそっと摘まんで伸ばし爪の先が良く見えるようにとしているのが、テーブルの隣で膝が汚れるのも気にせず立ち膝をしてその様子を見ていた”薄力粉”の鶴丸様で、紋の下にはいちごのロールケーキの食品サンプルがぷらぷらと揺れている。 人の指先をまじまじと見て4振りの鶴丸様がお互いの顔を見合って何やら考えているのを、我聞せずに昼飯をとしたいところだが分かってはいたけれどそうはいかない。 ”薄力粉”の鶴丸様が爪の先をその白い指先でそっとなぞりながらこちらを見上げる。その様子に嫌な予感はしたがここまで囲まれていて今更逃げられるわけもない。 「なあ、きみ、とりっくおあとりぃとだ」 「ちょうどいい、答えられないきみへのいたずらはもう決まっているからな」 こちらの顔を覗き込むように”薄力粉”の鶴丸様が言えば、”玉子”の鶴丸様がしたり顔で笑う。”角砂糖”の鶴丸様が小脇に抱えていた茶色い袋を開ければ、そこからはふんわりと甘い香りが広がった。そこに”牛乳”の鶴丸様がひょいと手を突っ込む。 「俺からはこれだな」 可愛いハロウィンの柄のカップで焼かれたマフィンを差し出してくる。その脇から更に紙袋から出てくるのドーナツ、マカロン、クッキー・・次から次へと出てくるそれらに見ているだけで胸焼けしそうな量の菓子がランチセットのトレーの上に積み重なっていく。 暇だからって作りすぎじゃなかろうか。昼食すらまだなのに減退していく食欲にげんなりしていた眼前に摘まんだクッキーをずいと差し出される。反射的にちょっと引いた視界にはデコペンで可愛く?鶴とかぼちゃがダンスしている様が描かれていて、絵上手いのは”角砂糖”の鶴丸様だったかなと現実逃避した思考回路を責めるように更に近づけられたクッキーの端が口に当たった。 「すでに相手した”俺”がいるっていうのに、きみは俺たちを不公平に扱ったりしない。そうだろう?」 「そら、いいこだから口を開けてくれ」 当然だよなという風に”玉子”の鶴丸様と”角砂糖”の鶴丸様は笑顔でテーブル越しに見下ろしてくる。その横の”牛乳”の鶴丸様は片手にマフィンを持ったままでまさかこれは順番待ちじゃなかろうかと戦慄した。 そっとクッキーをつまんだ手の持ち主に目を向ければ、テーブルの端に片腕を置いてそこに顎を乗せた”薄力粉”の鶴丸様と目が合う。 「なあ、きみ。ほら、・・あーん」 | ||
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