やっとついたと売店に入れば、向かいの棚の間を見慣れた白い頭頂部がひょこひょこ動いている。反射的に逃げを打とうと踵を返しかける足を、一瞬考えた末に元に戻した。今ここから出て他大勢の鶴丸様に悪戯をされるよりは、この鶴丸様を一振りだけ相手してお菓子をゲットした方が今後の自分のためになる。

「おっ、きみもきていたのか」
「よかった、”半紙”の鶴丸様」
「んん?よかったとは・・ははあ、成程な」
「・・お察しの通りです」

目ざとくジッパーにぶら下がったロールパンのチャームを見つけたようで、シャツにベストを身に着けた”半紙”の鶴丸様はうんうんと頷いている。

「そしてきみはいたずらを回避しにここにお菓子を買いに来たってわけだな」

組んだ片手を顎に当てて眼鏡の奥の金の瞳をにっこりと笑みの形に変える。その表情にやはりそう来たかと肩を落とす。

「‎Trick or Treat」
「ですよねー。・・”半紙”の鶴丸様も悪戯とかするんですね」
「ん?まあ、たまには俺だってしてみたくなったりするさ」

”白墨”の鶴丸様と同じく講義をいくつか担当している”半紙”の鶴丸様もまた、悪戯好きの鶴丸様方とは違って落ち着きがあり頼れる大人といった雰囲気を持っているため、もしかしたら回避できるんじゃないだろうかと思ったが。
こちらの恨みがましい嫌味ともとれる一言にも苦笑で返した”半紙”の鶴丸様は棚の向こうから片手で来い来いと呼んでいる。棚を回って向かいに立てば見えていなかった小脇に抱えた荷物らしきものの中から一冊の薄い文庫本を差し出される。

「そういえばきみ、前に何か面白い本が無いか探していただろう」
「まあそんな話もしましたが、でもこれしおり挟まってますよ。読みかけなのでは?」
「そうだったんだが、今思い出してちょうどいいと思ってな。俺は前にも読んだことがあるんだ。良ければきみも読んでみてくれ」
「それならいいんですが」
「しおりも気にせず使ってくれて構わない。ああ、だが一緒に返してくれよ」

青い紐が結ばれたページをちらと開いて見れば、金箔がちらちらと舞う手すき和紙で出来たしおりが挟まっていた。なるほど鶴丸様らしい色合いだ。お気に入りなのかもしれない。

「あれ、そういえば悪戯は?」

ついポロリと零してしまった。
言わなければなんかこのまま「ではさようなら」出来そうな流れだったというのに、何をしているんだ自分と愕然と数秒前の自分に脳内で説教をしていれば、”半紙”の鶴丸様の目も丸くなっている。

「きみ、本当に正直者だなぁ。感心感心」
「いや、今のはつい出てしまっただけで。聞かなかったことにしていただいて構いません」

自分の馬鹿さ加減に呆れて、笑って撫でてくる手を避ける気にもならない。甘んじて受け入れていれば撫でていた手がぽんぽんと頭を叩くようにしてふと止まる。
なんだろうと見上げる前に斜め下を向いていた視界が陰って、また明るくなる。そうして再度ぽんと軽く頭に手が乗せられて、離れていった。

「なんですか?悪戯は何にするか決まりましたか」
「はは、いやなんでもないさ」
「?」
「悪戯か、悪戯なぁ・・んー。それで?お菓子は買うのか?」
「ここに来て買わないという選択肢はないですよ。え、悪戯がお菓子買わせないとかそんなの無しですよ」
「いや、悪戯はもう・・・。ああそうだな、買わなくてもいいんじゃないか?」
「いやもう何が何でも買いますから」
「そうかい」





→ やっとお菓子をゲットした。
  もう今日はなるべく出歩かずにお昼は食堂にしよう。



→ お菓子は手に入れたがすでに疲れている。
  建物内よりは鶴丸様率が低いはず。
  お昼はもう外で食べることにしよう。











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