午前の事務仕事をしていれば気付けば昼休憩の合図が出されて、もうそんな時間かと思えば急にお腹が空いてきた。お昼はどこで食べようか。 今ならいつどこで鶴丸国永様に絡まれても売店で買ったお菓子も備えている。正面の入り口に向かって歩いていれば後ろから肩を叩かれた。 「ははっ、きみは本当に学ばないな」 「”白詰草”の鶴丸様・・」 頬に突き刺さる指先は爪こそ切ってあるがそこそこ痛い。いや、もっとゆっくり振り返れば良かったのだが確かに自分は学んでいないようだ。鶴丸様方の中では割とポピュラーな悪戯に毎度引っかかっている。 「なんだ昼は外で食べるのか?」 「・・・・・」 「ほう、俺には教えてくれないと。そうだ、そうだその前に」 実は苦手な”白詰草”の鶴丸様相手に正直な口が無言を貫けば、笑顔で何を気にした様子も無くその袂をごそごそと何やら漁っている。何をする気だと内心構えていれば割とよく見るチョコの入ったマシュマロ菓子の個包装を取り出しておもむろにパッケージを開け始めた。 「きみ、言わないのなら俺から言ってしまうぞ」 「え、え?・・トリックオアトリート・・?」 取り出したマシュマロを指先にスタンバイした相手を前に、おそらく合ってるだろう言葉を言えば満足げに頷いて、その白い指先に迷いなくマシュマロをぶっ刺した。 「は、?え、むぐっ」 「おっと、折角顔が書いてあるのに見せるのを忘れてしまったが、まあいいか」 白い指先に刺さった白いマシュマロからはチョコがはみ出て、とその奇行に呆気にとられた瞬間迷いなくそのマシュマロを指ごと口に突っ込まれた。マシュマロを口内に置いてくるようにぐるりと動かした指先が抜かれていく。そのチョコソース付きの指先をぺろりと舐めてニコリと笑う。 「よし、なら今度は俺の番だな。とりっくおあとりーと」 強制的にこちらのターンを終わらせて何事も無かったかのように自分の番を宣言した相手に、口の中のマシュマロを急ぎ飲み込んで売店で買った飴を取り出す。これはさっさと渡してさっさとずらかろう。やっぱり”白詰草”の鶴丸様はあまり関わり合いになりたくないお相手だ。 まだ開けてなかったパッケージを開けようと袋の口を引っ張っていれば、さっきチョコ塗れだった指先がその袋をさっとさらっていった。開けてくれる、わけでは無いらしい。見上げればどこか歪んだ笑みを浮かべている。 「仕方ない、これで手打ちにしよう」 「丸ごと全部とは・・いや、何でもないです」 「じゃあな」 去って行く後姿を見て気を取り直す。外で食べるついでに何か買って来ようそうしよう。 さっきのことは忘れることにした。お昼に食べたカツ丼定食は美味しかった。 | ||
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