「はぁっ、いつもよりすごい人混みだね」 「そうですね」 「おっと、あのでぃすぷれいには一言物申さないといけないね。あの縛り方はなってない」 「はいはい、行きますよ」 「ふふっ、強引なきみも嫌いじゃないよ」 「サヨウデスカ」 見回りに出れば、まだ昼過ぎだというのに審神者の方々と彼らに付き添う刀剣男士の皆様と、あとは非番なのだろうか主を連れずに仲間同士でわいわいと楽しむ刀剣男士の皆様とたまにスーツ姿の政府の職員とが入り混じって、いつも賑やかな32番街はまさにお祭り騒ぎだった。 白虎隊所属の亀甲貞宗様はそんな人混みと熱気に負けない吐息を吐き、店先の鎖が巻かれた棺桶にケチをつけたかと思えばもう包帯男の置物にうっとりしている。 「そういえば、どうして私と組んでくださったんですか?」 ハロウィン当日の32番街の見回りなんてもの好きじゃないとやりたくない。どこでトラブルが起きてもおかしくはないし、基本的には人に優しい付喪神と言えど彼らの本性は刀だ。ぐるりと見回す視界では仮装を楽しみつつ帯刀していない者はほぼおらず、つまるところ酒でも入って暴れたらまさしく刃傷沙汰だ。祭り騒ぎにお酒が加われば陽気な刀も手に負えなくなったりするもの。 わざわざ挙手して組んでくれた相手の淡い色の前髪の下、眼鏡の奥の瞳と視線を合わせればその瞳はうっとりと細められた。 「きみだって、いつも絡み合ってる刀と組まなかったのはどうしてだい?」 「からみっ・・いや、今日はもう本当お腹いっぱいだったもので」 口に出さなくとも亀甲貞宗様が言っている刀が、白虎隊を好んで所属してくる白いお刀様のことだと分かるが絡み合うってなんだ。そんな絡まれ方は金輪際されたくないが、とまで考えて昼前に遭遇してしまった”白詰草”の鶴丸様のことを思い出してげんなりする。 そんなこちらの心境は分かっているとばかりにうんうんと頷いて、その両腕をおもむろにさっと広げた。この亀甲貞宗様はよくやる仕草だと分かっていたので二人で歩いていてもあらかじめ距離は少し広めに空いている。適切な距離を取っていたので隣で歩いていてもぶつかりはしないが、間を審神者様や刀剣男士の方がガンガン通っていく。これもまたいつものことだ。 「きみと組みたがっていた彼らの嫉妬の視線がっ僕を熱く縛り上げて・・あぁっ」 「あ、大丈夫です。何でもないのでどうぞお通りください」 こちらもまた慣れた態で亀甲貞宗様を初めて見てぎょっとする審神者様や刀剣男士様の交通整理を行っていたのだが。 気付けば、人混みに押されて大分亀甲貞宗様との距離が開いてしまい、間を通るたびに遮られる視線で上手く亀甲貞宗様を捕捉できなくなってしまった。 「あれ?亀甲貞宗様ー?」 人垣の向こう側から声が聞こえるような気がしたが、それもまたふつりと途切れる。 今度こそはぐれてしまうと慌てて周囲を見渡す耳にそれらしき声が聞こえてきて、急いでそちらに向かった。 | ||
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