心なしか競歩で向かう先は売店だ。これ以上悪戯をされては困ると強めの歩みに、揺れる胸元のジッパーについたロールパンの食材サンプルのチャームがゴンゴン当たる。 ”強力粉”の鶴丸様の元で揺れてるときはその着物が柔らかく受け止めていたせいか、後は体格差かそんなに固さや重さは感じなかったというのに自分の胸の間はそこそこの重みで強打されていやしないだろうか。これは自身の胸元のキャッチ力が足りないせいか、と一瞬目が遠くなった。 「きっと胸筋かな」 「何をぶつぶつ言っているんだ?」 「・・でも鶴丸様もそんなに無いですよね」 「何がだい?」 「平たいし、薄い」 「・・・きみが見ているところについては少々物申したいところではあるが、それよりもだ」 はっ、と隣でいつの間にか並走していた相手を見上げる。並走、というかこちらは競歩のつもりだが歩幅の関係であちらは特にそうでも無いところが実に悔しい。いや、今はそんな状況ではない。 「あ、すいませんちょっと待ってもらえませんか”おにぎり”の鶴丸様」 「きみの魂胆は分かっているからな。だからこの道で張ってたんだ」 「張ってたとか、そういうのいらないですしほらもう見えてきましたから是非とももう少し待っていただきた」 「とりっくおあとりぃと!」 「ああぁー」 崩れ落ちるように壁に寄り掛かったこちらをからからと笑って見ている”おにぎり”の鶴丸様にさあ、何でも好きにしてくれと項垂れる。 「ハンカチを貸してくれ。・・・んーこれじゃあちょっとなぁ」 貸してくれというから渡したというのに私のハンカチはお気に召さなかったらしい。迷った末に返された朝適当に選んだ薄緑色のハンカチを無言で受け取る。いったい何がお望みなんだ。 仕舞おうとすれば止められて何故かまたハンカチは持っていかれてしまった。 「用が済んだら返してくださいよ。・・て、何ですこれ」 「俺のハンカチだな」 まあそうだろうなと青と白の三角形の並ぶ、確か鱗文様というのだったかと考えながらその差し出されたハンカチと”おにぎり”の鶴丸様の顔を交互に見た。 「今日は俺のハンカチを使ってくれ。とれえど、ってやつだな!」 「え、えー・・」 今日一日の交換だと言われても使ったら洗って返さないといけないだろう。というかすでにこのハンカチ何か赤いしみが出来ているような。洗って落ちるものだろうか。 | ||
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