「・・・メイド・・」

「ぉおおおおおおお、ちゃん!ちゃんがそれ引いたの?!それ俺様のいちおsぐぇえ」

「レイヴンさんの趣味か!」

ぎゅぅっと両手を組んで期待の目で見てくるレイヴンの顎をぐわしと掴んだ。
その顎をぐいっと下して顔を近づける。

「っ、顔、近いよちゃんっっ」

こういうことをすると案外初心な反応を返すレイヴンさんのことをガン見で威圧しながら、声を潜めて聞く。

「レイヴンさん・・」

「ひぃ」

「ひとつ聞くけど、コレだれのメイド服・・」

のけぞりながら出来るだけ距離を取ろうとするレイヴンさんを上から覗き込んで、下を見下ろす視線で問う。
こわいとか言ってるけど聞こえない。

「答えてレイヴンさん」

大切なことだ。
何故なら。



「ひぁっ」

レイヴンさんを掴んでいた手から力が抜ける。
思わず上げてしまった声は仕方が無いというものだ。
レイヴンさんにかぶる自分の影に更に被さる影は両側に長い触角があった。

「ジュ、ジュディスさ・・」

まさかという思いで背後から撫で上げられた首筋を抑え恐る恐る振り向けば、くすりと妖艶に笑うジュディスさんとその腕に抱えられている衣装。

、あなたが引いたみたいね。はい、コレ」

にっこりと笑う声と共に渡されたのは、白い胸元と黒い袖、そしてサックリとスリットの入った紫色のスカート。

「・・スカートっていうか、もうこれ」

短いまいかけっていうか、腰エプロンじゃなくて?と目が遠くなる。

「この下に」

「これね」

ズボン履いちゃ駄目ですかと聞く前に問答無用で黒いオーバーニーソックスを渡される。

「着替えにはこの部屋を使ってね」

実に楽しそうにいうジュディスさんは誰の衣装を着ているのか、白い襟を立てて黒いズボンに長めの紫のコートと同色のシルクハットを被っている。
控えめに言ってもとても格好いいけれど、おそらくちょっぴりエッチで露出度が高い衣装を求められている彼女がこんな防御力高めの服装をしている横で、自分がコレとは・・。

「チェンジは・・」

「それじゃあ、楽しくないわ」

うふふと笑って部屋に押し込められてしまった。








そっとみんなが集まっている部屋を覗く。

「・・わぁ」

なんていうか、見慣れないというよりあまりにも統一性の無いカオスな空間が広がっていた。

・・?」

「わっ、と・・フレンさん、・・・」

トンと叩かれた肩をびくつかせて振り返れば、廊下の暗がりでも僅かな光に煌めく金色の髪と誠実そうな青い瞳と目が合う。
そして反射的に走らせた視線と共に言葉を途切れさせた。

「・・、・・・」

「スゴイ、ですね」

なんだそりゃと正直に言っちゃいそうな口を懸命に閉ざす。
走らせた視線にフレンさんもカアァッと顔を赤くして視線を逸らした。

「・・・、ユーリのなんだけど」

「?!」

でっかいぎざぎざの肩口の飾りに、胸元を交差する幅の広いリボン・・・全然胸元が隠せていない。
星空のような黒い布地に隙間から覗く赤紫色のラインが目に痛い、ついでに頭も痛い。
胸元見せてくる辺りはさすが先輩と言いたくもなるがそれにしたってこのセンス・・。

「それ、着てたんですか・・」

「いや、彼の意じゃないと思うけど・・」

困ったように目を泳がせてそう言うフレンさんにそうですか、と言うにとどめる。
それよかリボンが少しはちきれそうになってる胸板をそれ以上正視していられず、今度はこっちから目を逸らした。

「・・・、それは」

いやー、これはすごいものを見たとドギツイ衣装から目を逸らせば、躊躇いつつのフレンさんの声が降ってくる。

「・・ジュディスの、だよね」

その言葉にハッと自分の今の格好を思い出させられた。
衝撃的なものを見ていてすっかり忘れていたが、そうだ、自分の格好も大概。

「あの、何かその本当にゴメンナサイ」

先に謝っておこうと頭を下げる。
なんてったって寂しいのだ、・・胸元が。
どことなくスースー感を感じるのを全力で無視している。

「あ、いやそんなこと・・」

「?」

何故かモジモジとしたように視線を泳がせているフレンさんに訝しげな視線を向ける。

「謝らなくても・・その、僕はカワイイと思うよ」

言って、頬を染めるフレンさんにまたもや衝撃が走る。
そっとその手が伸ばされて、私の手はそっと握られた。
信じられないものを見る目付きでガン見してしまえば、フレンさんはコホンと小さく咳払いをしてすでに隙間が開いていた扉の前に立つ。

「自信持って」

私の片手を引いて、そして少し気恥ずかしそうにしながらもニコリと笑って扉を開いてくれた。




 <after that...









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