我が本丸へようこそ



「・・・ちっせぇな」

「・・・・・」

ずおっと立ち上がった影はゆらゆらとはためいていて、その覆うような影の暗がりの中から相手がこちらを見下ろしているのは分かった。
・・だからといって、その一声はなんだ。


+ + + + +


長い袴の裾、水色の羽織。
そして何より特徴的な長い髪が呼び出したその力の残りにふわりと揺れて、そしてゆっくりと落ち着いていく。
刀剣から人の姿をとった彼らはみな、男子だと聞いていたがとまじまじとその影を見上げていたのだが、降ってきた声を聞いて「あ、やっぱり男子か」と思う心は声には出さずに飲み込む。

「・・・・・」

「ちっせえよな、な?国広・・・?ん、国広はいねーのか」

誰かに相槌を求めるような物言いをして、ふと辺りを見回す相手に首を傾げる。

「国広さん・・?ならまだお会いしていませんが」

「何だよ、あいついねえのか」

しょうがねえなとでも言わんばかりに後ろ頭に手をあてて、零される溜息にこちらもついと視線を外して小さく溜息を吐く。

「んで・・、あんた、誰。ここはどこだ」

「・・・・私は、さ」

言いかけた声を遮るように、小さくタンッと音を立てて襖が横に開く。
それに思わず開いた戸の向こうを見れば、短い黒髪を揺らした近侍の少し猫目気味の目と目が合った。
こちらを見て、そして部屋の中央に立つもう一人の人物を目にとめる。

「おっ、新入りか」

「薬研・・・」

何だかちょっとだけほっとしてその名を呼べば、薄紫の瞳が一瞬きょとりと丸くなる。
そして、その瞳はふっと細められた。

「後は俺が本丸を案内しとくから、大将は休んでてくれ」

「あ、いやいいよ、大丈夫」

そんなに疲れていないし、まだ仕事やら家事やらあれこれしなければと思っていたことがある。
両手を小さく振って否を唱えれば、薬研は少し眉根を寄せて腕を組む。

「何だか、ちっせえのばっかだな」

薬研が何事か口を開きかけた瞬間、呆れたような脱力したようなそんな声が耳に届く。
発信源である部屋の中央の影を振り仰げば、次の瞬間その視界に何かがすいっと横入りをして、目の前に濃紺が広がった。

「俺っちは薬研籐四郎だ、よろしくな」

「・・・・・」

無言の沈黙が数秒続いたのち、薬研がくるりと振り返った。
少し崩れた正座のままその顔を数秒見上げて、そしてはっとする。

「ごめん、薬研。ちょっとぼけっとしてしまった」

「だな。・・まあ、さっき清光と乱のやつが畑の方をやってくれてたみたいだし、今日はもういいだろ。んで、あいつら今は茶の間で菓子食ってるから・・早く行かないと大将の分の菓子も無くなっちまうな」

そう言って、後は任せろと優しく背中を押して追い立てようとするその手を握って、首を傾げた薬研に笑い返す。
そして、その手を離して部屋の中央で所在なげに突っ立っているその影を見上げた。

「・・・・なんだよ」

「小さくて、ごめん。でも私にはまだ助けとなる力が必要なんです。・・・あなたみたいな美丈夫が我が本丸に来てくれて嬉しい。これからよろしく、和泉守兼定」

右手を伸ばす。
それを訝しげに胡乱気に見下ろす1対の薄碧の瞳。

「何で、俺の名前・・・」

「え、それはだって」

言いつつ、正座の膝の上に抱えていた布の覆いを外す。
ふわりと広がった布の中央に立派な一振りの刀があった。

「刀を持ってしてあなたを呼び出したのだから、知っていて当然でしょう」

その段階になって、やっと「は?!それ、俺・・の刀・・俺?!・・じゃあ今ここにいる俺はなんだ」と狼狽えはじめる背の高い相手に、思わず笑いがこぼれた。

「うん、どうやら上手くやれそうだな」

「いやぁ、また賑やかになるね」

黒い手袋に包まれた指先を顎に沿えて、ふむとその光景を見ながら薬研が呟くのに同意する。
季節外れの桜の花びらが、ひらりと布の端から舞い上がった。




◆アトガキ



2015.5.25



珍しく流行りにちょいとのっているのは、ユーリと同じ声優さんが出ると聞いてテンション上がったからというのと、スマホは持ってないからアプリには本当さっぱり触れなくて悲しい限りだけれど、PCブラウザゲームなら出来るから・・!!
じーじは、我が本丸にはいません。
あれは最早UMAの類だと思ってます。
薬研兄貴と兼さんが私の中でも本丸でもツートップです。
特攻隊帳は兼さん。
本丸で頼りにしてるのは薬研といったポジショニング。



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