Today is P●CKY & PRE●Z DAY



【ビバルディとポッキー】

「・・・アリス」

赤いマニキュアが塗られた細い指が優美に振られる。
まるでその指先が杖のように、魔法をかけられたかのようにアリスはふらりと近付く。

「ここに、お座り」

寮長だけの秘密の部屋。
ビバルディと、自分しか入れない部屋には、可愛らしいぬいぐるみがそこここに転がっている。
抱えていた白いウサギのぬいぐるみは、一瞥したビバルディによってとられてしまう。

「それじゃなくて、こっちにおし」

代わりに寄越されたのは、くったりとした手触りの良いねこのぬいぐるみ。
真ん丸の頭に頬を寄せれば、ふわふわとくすぐったくてアリスは笑う。
その様子を見ていたビバルディの目も、満足げに細められた。
自らの腕に抱えていた大きなくまのぬいぐるみを床に放り、横に腰掛けてねこのぬいぐるみに頬ずりをするアリスを抱き寄せる。

「ビッ・・ビバルディ・・?」

「お前はほんに可愛いの」

ハッとしたように顔を赤くするその頭を撫でれば、うっとりとした顔で見上げてくる。
サイドテーブルに置いておいたお菓子を一本とって、その口元に近づける。

「ほら」

「??ありがとう」

きょとんとした目で差し出されたそのお菓子、ポッキーを見てアリスは受け取ろうと手を伸ばした。
掴む前に、すっと引かれる。

「チョコでお前の手が汚れてしまうであろう?」

「??そのぐらい、平気だわ」

意図が分からずに首を傾げるアリスの、その中途半端に伸ばされたままの手の脇を抜けて、また掴んだままのポッキーを口元に近づける。

「このまま、お食べ」

「え?え、このままって・・」

ようやく分かったというように顔を赤くしたアリスは、ポッキーとビバルディを困ったように交互に見る。
でも、と口を開いたその隙に、ビバルディはポッキーの先をちょんとその唇にくっつけた。

「!!!」

「良い子だから、ね」

観念したように差し出されたポッキーをくわえて、ポリポリと食べ始める。
ああ、ほんに初な子。
やっぱり国に連れて帰ってしまおう。
ここに置いていってそこらの馬の骨にやるなんて、勿体無いにもほどがある。
ビバルディはうっとりと目を細めて、うっすら染まった可愛らしい後輩の頬をそっと撫でた。




【ペーターとポッキー】

購買で今日は安く売られている細長いお菓子の入ったパッケージを二つ手に取って、アリスは悩んだ。
疲れている時は甘いほうがいい。
でも甘いものを食べているとしょっぱいものも欲しくなる。
・・・二つ買ってしまおうか。
二つの箱を両手に持って悩むアリスの上に、背後から影がかかる。
ハッとした時にはもう遅かった。

「ああっアリスアリスアリス!!!」

がしっと背後から腕が回されて、重みが加わる。
まるで、おんぶおばけのようだ。

「重い!退きなさいよ」

肘で背後の人物を押しのけようとするが、べったりくっついて離れない。
購買で買い物をしようとしていた周囲の他の生徒からの視線が痛い。
ついで、ひそひそと交わされる声、ちらちらとこちらを見る目。
迷っている場合ではなくなって、アリスは無言で二つのお菓子のパッケージをレジのおばちゃんに渡す。

「おや、彼氏とポッキーゲームかい?」

「~~~っ」

にやにやされるのがもうたまらなく嫌だが、さすがに購買のおばちゃんは殴れない。
ひっつく幼馴染をずりずりと引きずって、アリスは何とか人気の無い寮の裏手まで歩いてきた。

「アリスっ!こんな人気の無い場所で・・ああ、貴方が望むというのなら僕は貴方とポッキーゲー・・」

「黙れ」

殴る。
殴って張り倒して、殴って蹴る。
動物虐待?
・・・まさか。

「きょ・・今日も激しい・・」

「土に・・・還れ!!!!!」

バキッという良い音がして、きりもみ回転をした相手がどさっと土に埋もれた。
そのまま肥料になってしまえ。
いや、こんなものが肥料になったら折角美しく咲いている薔薇が枯れてしまうかもしれない。
そんなことになったら我らが寮長、ビバルディが悲しむだろう。
それは駄目だ。
綺麗に決まった回し蹴りをかました右足をすっと下ろして、アリスは地面にのびた白く長い耳を見下ろす。
ぴくぴくしているから、まあ死にはしないだろう。
うんうんと頷いて、買ってきたパッケージを二つともペリペリっと開けて、ポッキーを食べて、それからプリッツを食べる。
やっぱり二つとも買って正解だったなと頷いて、アリスはまた、ポッキーとプリッツを1本ずつ取り出して幼馴染の顔の近くに立てる。

「・・・・・あげる」

・・・・お線香みたいになってしまったが、まあいいだろう。





【エースとポッキー】

今日はポッキーの日、らしい。
企業戦略に乗るのは少し抵抗があるが、安くなっているのなら買わない手は無い。
何だかんだで、おやつは好きだ。
授業が終わって夕ご飯を食べる間に、小腹が空いたら何かつまみたくもなる。
食べすぎは良くない。
・・・でもついつい。

「アーリスっ」

ついつい次の一本に伸びた手が、びくっとはねる。
いやいや、自分のお金で買った自分のものだ。
やましいことは何も無い。

「・・・エース・・・」

「なぁんだよビクビクしちゃってさ!」

気配を殺して背後に立った相手は、こちらを覗きこんであはははっと笑っている。
その無駄に爽やかな笑顔を、じっとりとした目で見上げる。
本当に心臓に悪い。

「何なにー?何だか人に言えない悪いことでもしてたのか?」

にやにや、にやにや。
無駄に驚かされた身としては、拳のひとつもお見舞いしてやりたいところだが、避けられてしまうのがオチだろう。
アリスは溜息を吐いて・・・そして、周囲を無言で見渡した。
窓の扉が全開だ。
どうりで寒いと思った・・・・、ではなくて。

「何で女子寮に勝手に入ってきてるのよ」

「え?ここって女子寮だったのか?」

「見れば分かるでしょう・・」

「んー・・そうだったのか。君がいたからつい入っちゃったけど・・」

あちゃー、まずいかなー・・と頭に片手を当てる相手を、半眼で見上げる。
仮にも風紀委員が風紀を乱してどうするんだ。
目が合った相手はにこっと笑って、課題をやりながらアリスが食べていたポッキーに手を伸ばす。

「アリス」

「・・・・何よ」

にこにこ、にこにこ。
警戒して身を引けば、ポッキーを持ったまま開いた距離を詰められる。
すかさずポケットに右手を滑らせて、持ち運びしやすく縮小させていた杖を取り出す。
片手を滑らせて、通常サイズに戻して構えた。

「君は、もっと太っても大丈夫だよ」

「・・・っ!!」

杖を横目で見ながらポッキーを突きつけてきた相手を、反射的に睨みつける。
素早く詠唱した呪文によって、杖の先に光が灯って風が巻き起こる。
ところが、巻き起こったはずの風は一瞬にして消え去ってしまった。
相手の手にはいつ抜刀したのか、魔法媒体である大剣が握られている。
相殺されてしまったのだろうか。

「部屋の中で魔法を使うなんて、危ないだろう?」

「あなたが部屋の中にいたほうが危ないわよ」

「はははっ・・それって、俺のことを意識してくれているってこと・・?」

「!!!っ」

笑った後、一瞬にして距離を詰めてきた相手が、耳元で低く囁く。
ふっと笑う吐息が耳に触れて、びくっとする。

「びくびくしている君を見ると・・もっと悪いこと、しちゃいたくなるぜ」

ひゅっと息を吸い込んだ口元に何かが押し付けられる。
思わず拒めば、赤い瞳がじっと覗き込んできた。

「今日はこれで、我慢してあげるからさ」

あーん、と言ってにやりと笑う相手は、食べないと離してくれそうには無かった。
しぶしぶ差し向けられたポッキーの先っぽだけくわえて、かじって折ってしまおうとした。

「!?!!」

半分近くまで押し込められて、喉に刺さる恐怖に顔が青ざめる。
その様子を観察するように見ていた顔がすっと近付いて、ぱくりと反対側をくわえた。
離れようとする前に二口で近付いた口がちゅっと触れて、おまけというように唇をペロリと舐め上げられる。

「やっぱ、ポッキーはこう食べないとな。甘いけど、美味い」

満足げに笑うエース。
固まったアリスの顔は、羞恥で真っ赤に染め上げられた。

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