Today is P●CKY & PRE●Z DAY



【ボリスとポッキー】

「アリス。あーん」

あー、と自分の口も空けたまま、こちらにポッキーを向けてくる。
金色の瞳はなにやら愉しそうで、尻尾もご機嫌といった風にゆらゆら揺れている。

「・・・・・」

「ほら。・・・誰も見ていないって」

「~~~っ」

寮の仕掛けを発動させて辿りついた寮のてっぺんで、アリスは不用意に動けずに逃げることも出来ない。
諦めて口を開けば良いだけだ。
でも、下を通る他の生徒がうっかり見上げてしまったらどうしようと思えば思うほど、アリスは動けなくなる。
固まってしまったアリスの背中をほぐすように撫でて、ボリスは手に持っていたポッキーをぱくっと食べてしまった。

「・・あっ」

さっさと食べれば良かった。
そんな良く分からない気持ちでくわえられたポッキーを見ていると、ボリスの目がとろけるように細められる。

「あんたって、本当に可愛い」

ポッキーをくわえたまま器用に喋る猫の顔がすっと近付く。

「っ!!?」

もにっと上唇と下唇の間に差し込まれたそれに、目を白黒させる。
仕方無しに少しだけ口を開けば、優しく押し込まれる。
それ以上近付かれたら敵わないと慌てて前歯でカリッと折れば、残りをくわえたボリスは残念そうな顔でちょっとだけ離れていった。

「来年も、一緒に食べようぜ?」

思わずそっぽを向いてもぐもぐとポッキーを食べて、こくりと飲み込んだ。
飲み込んだだけなのか、頷いたのか自分でも良く分からなかった。





【ピアスとポッキー】

「あっアリス、アリス!!」

放課後、寮の外のベンチで教科書とノートを開いていると、どこからか名前を呼ばれる。
きょろきょろと見回した先の茂みががさりと揺れて、茶色くて真ん丸の耳がにょきっと生えた。

「ピアスっ?そんなところで何やってるのよ」

「俺、隠れてたんだっ見つかるとあいつら、ひどいんだもん」

拗ねたような顔で口を尖らせて、その一瞬後にはびくびくした様子で辺りを窺っている。
どうやらボリスや双子に追い掛け回されて、逃げて隠れていたらしい。
辺りに誰もいないことを確認してから、何やってるのー?と近付いてくる。
その頭や肩にくっついてしまった葉っぱを取ってやりながら、宿題よと答えればその緑色の目が驚愕に見開かれた。

「えっ!?しゅしゅしゅ、宿題っ?!」

「・・・ええ・・ってピアス、聞いていなかったの?」

「!!?」

聞いていなかったのだろう。
クラスメートのピアスとは同じ授業を受けていたはずなのだが、ピアスのことだ、授業中でも構わずきっと寝こけて聞き逃してしまっていたに違いない。
仕方が無いと、空いてるベンチをぽんぽんと叩く。

「何の宿題が出たか教えてあげるから、座りなさいよ」

「あっありがとう!アリス、大好きっっ!」

「ちょっと・・!!」

座れといった傍から抱きつかれて、アリスは慌ててその体を押し返した。
油断するとすぐにくっつかれて、更に油断するとすぐにキスをしようとしてくる。
可愛い外見に惑わされてはいけない、とアリスは警戒心を強めた。

「・・・・アリス、俺のこと嫌い?」

「嫌、いじゃないけれど・・・ちゅーはナシ!」

「・・・ちゅう・・」

しょんぼりしたピアスに、そういえばと持っていた荷物から赤い箱を取り出した。
ペリペリと外装をはがして、中の袋をビリッと空ける。

「ほら」

途端に輝きだす相手に、本当にこいつクラスメートかしらと思う。
どう見ても、年下にしか見えない。
もらって良いの?と聞く瞳に頷けば、袋から一本取り出して嬉しそうに眺めている。
まだあるんだから、眺めてないでさっさと食べればいいのに。
そう思いながら、アリスも一本取り出してさっさと食べ始めた。
放課後で小腹も空いている。
購買で今日は何故か少し安くなっていたポッキーとプリッツを見て、ポッキーを買ってしまったのは脳が疲れているのかしらねと、どうでもいいことを考えながら教科書をめくろうとした。
指を伸ばしたページの上に影が出来る。
暗くて見えないと言おうとして、アリスは顔をあげた。

カジカジカジッ・・・チュ

「!!?!?」

食べた。
アリスがくわえていたポッキーを、反対側から・・食べた。
オマケと言わんばかりに触れた温もりに、アリスの頭がショートする。

「美味しいねっアリス!あ、そういえば今日はポッキーの日、だもんね!!」

何てことは無さそうに笑っているピアスが、確信犯かどうかなんて考える余裕はアリスには無かった。




【ゴーランドとポッキー】

「~~~♪」

手に持った細長い棒をふらーりと揺らす。
廊下を歩きながら思い描いているのは、今日習ったばかりの魔法陣のことだ。
円とその内側に描く文様とそれらを囲む文字を、無意識に手に持つそれをふらりふらりと動かして空に描いている。

「おっアリス・・って何してんだ?」

「~~♪」

後ろから声をかけられるが、アリスは考え事に没頭していて気が付かなかった。
その様子を怪訝な顔でしばらく見ながら、横に並んだゴーランドが顔を覗き込んで、やっとアリスは近くに人がいたことに気が付いた。

「?!ってゴーランド・・びっくりさせないで」

「って俺はちゃんと声かけただろう・・気が付かなかったのはあんたの方だ・・・っていうか、あんたそれ」

そう言って、顎にかけていた手が外れてこちらの右手の先を指差される。
そうしてやっとアリスは、自分が廊下を歩きながら恥ずかしいことをしていたことに気が付いた。
右手に摘んでいたポッキーを慌てて食べる。
おやつにと取り出した細長いその形が杖っぽくて、今は小さくしてポケットに入れているそれの代わりに、つい振りながら魔方陣の構造について考え始めてしまったら。

「・・・見た?」

「ははははっ、俺が言わなかったらまだやってたかもな」

「・・・っ」

指摘してくれなかったら気が付かず、ずっと人目に晒してしまったかもしれない醜態に、ゴーランドで良かったかもしれないと思いながらも、アリスは小さく肩を落とした。
ポッキーをポリポリしながらへこむアリスを見下ろして、ゴーランドは得心がいったようにポンッと手を打った。

「そうか、あんた・・・」

「何・・・」

「そんなに指揮者がやりたかったのなら言ってくれよ!是非俺と一緒に舞台に立って・・」

「ごめんなさい、ゴーランド。私用事を思い出したから、じゃ」

「ええ、違うのかよ・・?」

戸惑ったように、そしてちょっと残念そうな顔をする相手に、アリスは迷った末に箱に残っていたもう1つのポッキーの入った袋を取り出して差し出した。
困った顔に無言で押し付ければ、一拍置いてその顔がにかっと笑う。

「さんきゅな、アリス・・もらっておく」

「ええ、じゃあね」

ゴーランドの笑顔を見て、アリスもつられてにこりと笑う。
この笑顔には弱いかもしれない。

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