服装の乱れは、風紀の乱れ  浴衣の乱れは、何とかの乱れ





「暑いですねぇ」

「暑いな」

「あーつーいー」

 1人は結わいた髪を片手であげて、もう片方の手でうなじをパタパタと扇ぎ、もう1人は、だらしなくない程度に少々崩した襟元を直接パタパタと動かし、もう1人に至っては、寝転んで乱れた服の裾をバッタバッタと盛大に動かして、覗く素足に風を送っている。

 暑さでちょっと火照った顔とか、各々から覗く生な素肌とか、漏れ聞こえてくる溜息混じりの吐息とかとかとか、色々と際どかった。


カタン 

「失礼します。お茶を・・・っっ!!?失礼しました!!!!」

ガターンッ

 城で下働きをしている青年が声をかけて静かに襖を開き、一瞬の後に唐突に謝ったかと思えば、外れたんじゃと思うくらいの勢いで襖を閉めて、ドタッドタドタドタドタと廊下を駆け去っていく。
 部屋の中の者が誰一人として、振り向いて声をかける暇も無かった。足音はあっという間に遠ざかっていく。

「何だったんだ?」

「なんでもいーよーあついよー」

 立ち上がって動くのも億劫とばかりに、茶色い髪を首元で丸く結い上げた3人の中では一番若そうな女性が、じりじりと畳を這って、襖の脇に置いて行かれた茶器を取りに行く。

カタン

「む」

「あ」

 女性の手が茶器の乗ったお盆に触れたと同時に、襖が再度開かれ、襖を開けた者と女性の視線が交差する。
 襖を開けた人物は片手を襖にかけたまま、無言でその視線を足元の女性から部屋の奥、窓際の桟に座った女性と、その脇の壁にもたれかかった様子の女性へと移動させた。

「成程な」

「あーこれは・・・」

 嘆息して襖にもたれかかった男性の脇から、ひょこりと顔を出した青年は部屋の様子を見て額に手をやった。

「二人とも、どうかしましたか?」

 立て続けに起きた出来事と訪問者に、うなじをあおいでいた手をぴたと止めたまま、片手で赤い髪をまとめあげていた女性が声をかける。
 健康というよりはちょっと白めのうなじが覗き、顔はそれに加え上気したようにほんのり薄紅色に染まっている。

 襖にもたれかかった黒髪の人物、この城の主でありこの国の国王でもあるヒョウは、その様子をじっと見て、口元に手を当てた。

「先ほど新しく入った下働きの者が・・・おや」

 廊下の方からまた別の声が近づいてきて、開いた襖の向こうでその姿が立ち止まる。
 しばらく停止した後、あごに手を当ててうんうんと1人頷いてから、にっこりとまるで女性のような柔らかな笑みを見せた。

「いつも着ている服とは違うんですから、もう少し慎みを持たないと誰もお嫁に呼んではくれませんよ、ヒナタ」

 茶器の乗ったお盆に片手を伸ばしたまま、畳に転がっていた、ヒナタと呼ばれた少女の顔が、う、としかめられる。

「それから、レン殿、シグレ殿。暑いなら階下へ降りてきては。冷たい空気は下に向かうので、上より多少気温は下がりますし」

 何にせよ、と満面の笑顔のままで話は続く。

「美しさとエロさは紙一重ですからね」


 人差し指をたてて、にこにこと話す人物に向かって、何となく微妙な空気が漂った。

 前途有望な若者をこれ以上惑わさないようにしてくださいね、と締めくくったカスミの言葉に、シグレは無言のまま緩めていた浴衣の襟を手早く直した。
 レンはきょとんとしたまま、動作を止めたままである。

「陛下も見てないで、何とか注意・・・ハッ」

 まさか、と口を覆ってカスミが一歩体を引く。

「いや、そんな真顔で引かれると、俺も反応にこま・・」

「陛下ーやらしー」

「え、ちょ?!そんな、陛下?!!」

 カスミの芝居がかった大げさなリアクションに、いやいやと反論しようとしたヒョウの声を遮って、ヒナタがちらりとレンを見てからひやかし、その動作につられてレンを見てしまったカタカゲが、赤い顔になり本気で焦った声を出す。

「???」

 一連の、まるであらかじめ口裏を合わせていたかのようなやり取りを見て、なお自分の様子に何一つ気が付いていないレンに、この即席コントの指すところの意味を知って、やれやれと首を振ったシグレが手を伸ばす。
 ぼけっとしたままのレンの手を降ろさせて、覗いていたうなじを襟を正すことで隠す。

「あ。ありがとうございます」

 浴衣の襟を直してもらったことに対して、レンはシグレに素直に感謝の意を述べた。

「いや」

 ちら、とヒョウに目を遣れば、表情にこそあからさまに出てはいないが、目が明らかに残念そうである。何よりその視線が、髪で隠れたうなじ辺りをそこはかとなく彷徨っている。それに気付いたのは、ヒョウの目の見える位置にいる、シグレとヒナタだった。

 カスミの言動に対して反論しようとしていたんじゃなかったのか!、と心の中でこぼしたシグレと違い、ヒナタの眉根が正直に寄る。今度はヒナタの顔が見える位置にいるカスミが、その反応に気が付いた。

「陛下」

 にっこり。

「・・・なんだ」

「式に良い日取りを、占っておきますね」

 見ていたものが見ていたものだけに、カスミの無言の圧力を前に、まだもう少し待ってほしいなどとは言いだせず、固まるヒョウ。

 お嫁にもらってくれるって言ってくれたのに・・どーせどーせ、といじけるヒナタと、お前はもう少し女性らしさ淑やかさを身につけろと、本気で妹の将来の心配をして諭し出すカタカゲ。

 やってられんと、呆れて部屋を出ようとしたシグレ。

 その最中に。

「わぁ、ヒョウさん、ご結婚するんですか」

 おめでとうございます、とレンが鮮やかに魔球を打ちこんで、その場を更にカオスにしたとか、出番の無かったイカヅチが影で泣いてたとか泣いてなかったとか・・・。




◆アトガキ



2011.08.06



 目は口ほどに物を言う、っていうお話。
 
 ごめんね、イカヅチ!

 襖が思ったより幅が狭くって、イカヅチ出したらカスミが動きとれないっていうか、中が完全に見えなくなっちゃうし。  シグレの肌蹴た胸元に、イカヅチが鼻を押さえるっていうシーンも入れたかったんだけど、そしたら陛下のムッツリスケベっぷりが完全におじゃんっていうか、影が薄くなっちゃうので、なくなくカットしました。
 だって基本は[ヒョウ×レン]だから!度合いが大分低いけど。
 もっと大胆に迫りたかったな・・・。精進します。

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