「そうやって黙っていれば、何かを守れると思っているのかい?」
さらりと衣擦れの音がする。
低く艶やかな猫なで声がせせら笑うように、薄暗い部屋の中に不快な余韻を落とす。
「本気で・・?」
今度こそ小さくクスクスとした笑いが聞こえた。
耳障りな、声。
「・・・・・」
それでも黙っているこちらに何を思ったのか。
滑る様に床を近づく気配に、床に向けていた視線を少しそちらに向ける、と同時に顎に指を添えられてツイと持ち上げられた。
柔らかく細められた瞳。
でもそれは、肉食獣が獲物を手にした時のように愉悦を含んだもの。
睨みつけそうになる己を何とか自制させて、強張る目元を無理やり無視するように出来る限り何でも無いものを見る目で眼前の相手を見つめ返した。
怒りを返すことすら、したくない。
「ふぅん」
無意味で無価値なものをみるように、瞳の中をがらんどうにして。
お前がどれだけ覗き込んでも、心の中を探らされはしないと手の平に爪を食い込ませる。
・・けれど。
「決めた」
同じ目でこちらを見つめていた相手が、ふっと目元を和ませる。
瞑った瞼の裏で何を思っているかを悟らせない。
「僕が飼殺してあげる」
それには、思わず眉根に力がこもってしまった。
ピクリと動いたこちらに、指を添えたままの相手が気が付かないはずが無く。
「ふふ・・、ねえうれしい?」
嬉しいわけが無い。
顔を背けて指先から離れようとした。
「!っ、ぐ」
そらした顎の下に入り込んだ細い指先に喉元を掴まれる。
思わず上げた呻き声とともに、今度こそ相手を睨みつけた。
「そうそう。まだ話の途中だからね」
話を聞くときはちゃんと相手の目を見ないと、と冗談のように言う。
その片手がじわじわと力を込めていくのに、気道が潰されていく。
そうして空気が通るか通らないかというギリギリの辺りで止められる。
それでも、十分ではない。
自然、鼻呼吸が荒くなるが、口元は固く閉じ歯を食いしばった。
「いいよ。何も話さなくてもね。だってそんなものはもうとっくに・・」
すっと近づく顔に身じろぎする。
耳元に寄せられた顔、目の前に緩くうねる長く淡い金の髪が揺れる。
寄せられた口元から微かにかかる呼気がわずらわしい。
頭を振って退かしたくとも、首に食い込んだ片手のその親指と人差し指が顎を押さえつけているせいで敵わない。
その所作に、ふっと笑うような気配。
「・・無意味、なんだから」
落とされたどろりと濃い毒が、耳から脳へと注ぎ込んでようやくその意味を知る。
殺してあげる、優しく、丁寧に。
絶望に染まった瞳を覗き込んで、結局開かれなかった唇をそのまま縫い付ける様に。
そっと覆いかぶさって、震えるその柔らかさを堪能する。
そうして、ゆっくりと歯を立てた。
◆アトガキ
2015.11.18
何か、急に浮かんだからそこだけ。
彩雲国、ずっと途中までで止まってたんですが、
最近まとめてがっと文庫分読み終えまして。
今、骸骨を乞う、読んでます。
・・だからか、だからか・・!
ちなみに凌晏樹そんな好きではないです、申し訳ないです。
ただ、こういう展開が浮かんで相手はダレだってなったら、ね。
あ、燕青が好きです。
セーガくんとタンタンも好きです。
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