「・・・・」
顎に手先を当てて考えること数分。
・・・・決まらない。
目の前にあるのは、いかにも美味しそうなスイーツの写真が使われたショコララテとキャラメルラテの紙パック飲料だ。
ちなみにキャラメルラテの方には、加えてカロリーゼロの表示がある。
「・・・・・」
どちらもとても美味しそうで、値段も同じ。
問題はカロリーゼロの表示だ。
カロリーは女子としては出来るなら控え目にしたい。
けれど、カロリーゼロ飲料に使われている人口甘味料があまり好きでは無いのだ。
ものにもよるとは思うのだが、過去に後味が非常にまずいものに当たった経験がある。
がっかりしたのと、カロリーを気にし過ぎてまずいものを選ぶのは良くないと思ったのだ。
というか、単純に美味い方が飲みたいに決まっている。
「・・・・・・」
さて、これはどうなのだろう。
パッケージは本当にどちらも甘くて美味しそう・・・。
「!!っ・・・、あ」
不意に背後から影がかかり、伸びてきた手が自分が見ていた飲み物の片方を取っていった。
「ん?」
迷わずショコララテを取っていった手に、最後の一つというわけでも無いのについ声を上げてしまった。
つられてちらと振り向いた先、キョトンとした顔の相手と目が合う。
・・・男子、・・そうかー、良いな。
きっと甘いものいくら食べても太らない体質なんだろうな。
羨ましいと、そのスタイルの良い相手からそっと視線を外した。
だから、背後の気配が立ち去らないままでいることにも気が付かなかった。
それにしてもスイーツ男子か、なんか可愛いな、と思いながらキャラメルラテを取ろうと指を伸ばす。
「・・・俺的にオススメは、こっち」
「ゃっ・・え、何?」
肩越しに伸びてきた腕が、勝手にショコララテを掴んでこちらの手に触れさせて来る。
急にかけられた声にも視界に入ってきた腕にも、何より右手に触れたひんやりとしたパックと相手の指先にびくっとした。
「それとこれとで悩んでんだろ?なら、こっち」
ほら、と押し付けられるようにされて、つい受け取ってしまう。
手に持ったショコララテの紙パックと相手の顔を交互にみていれば、満足そうに口角を上げる。
「そっちのは美味そうなんだけどな、後味が悪ぃんだよ」
カロリーなんて気にしねぇからちゃんと美味く作って欲しいよなと、キャラメルラテを半ば睨みつけるようにしている。
同感だ。
・・・いや、カロリーは気にするから、後半部分にだけ同意したい思いで頷く。
それにしても、と手にしてしまったショコララテの紙パックをじっと見つめる。
ならこれは何カロリーだろうかと、探るような目線が紙パックの表面を滑り、くるりと回転させようとした。
その回転させた先の、カロリーが表示されていそうな部分ににゅっと手が伸びてくる。
「ちょっ・・見えないんですが」
「まあ、いいじゃねーか」
「・・・・」
「それに・・・」
言いかけて言葉を止めた相手を訝しに見上げる。
目の合った相手は、顎に手を当ててちろりと視線を滑らせた。
「・・・気にするような体形じゃねえよ」
「!!!!」
頭からつま先まで視線を走らせて数秒。
何てこと無いように続けられた言葉に、瞬時に顔が熱くなる。
照れとかではない、決して。
反射的に持ち上げた足を、狙いを過たずに相手の足の甲に踏み下ろした。
ダンッと鈍い音と、踏まれた足を見て声にならない相手の呻き声。
「・・・ど・う・も」
自分より腰が細そうな相手に言われたって、素直に喜べない。
でも、余りにも良い音がしたのと堪えた顔にちょっとだけ罪悪感が湧き上がって、足の甲を今にもしゃがんでさすりたそうな相手の手から、ショコララテを奪い取った。
「あっ・・おい」
戸惑うような声を残して、レジのおばちゃんに二つのショコララテを差し出して、何か言ってる背後の声を無視してさっさと会計を済ます。
「・・はい」
「・・・・・」
振り返ってひとつ差し出せば、今度は相手がこちらの顔と差し出す紙パックを交互に見て少し、困った顔をした。
「褒め言葉として受け取っておくから、ほら、お礼」
「・・・・本気で言ったんだけど」
「はいはい、どうも」
「・・・・・・」
ちょっとむっとした顔に何だか楽しい気持ちになってきた。
笑いながら、受け取りかねる相手の手をぐっと掴んで無理やり持たせる。
「・・・ドウモ」
その、納得がいかないという顔にまた、笑った。
◆アトガキ
2014.8.30
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