〇●● 彼女と彼の共通点






「はい」

差し出したものは、コンビニでもスーパーでも見かける安くて美味しい某チョコレート菓子だ。
ココアクッキーの黒い生地にビスケットが混じる食感もいい、ベストセラー商品でついついひとつ籠に入れてしまう黒いあいつである。

「・・・、どうも」

朝から何だかうきうきしているように見える相手に、今日が何の日かは分かっていながら気付かないふりをし続けてはいたがさすがに夕方ごろにまでなるとチラチラと刺さる視線に鬱陶しくもなってくるというもの。
仕方が無いなと買い出しの際に籠に放り込んだものを、帰って夕飯を食べたあとに手渡せば、それはもう壮大な微妙顔で受け取られた。
ちなみに買い出しは一緒に行ったので、何を買ったのかも見ていたし付け加えるならその荷物をずっと持って帰ったのもユーリだ。
受け取ってはみたが、言いたいことがあるけれど言い出せない顔で手の中の物とこちらを見るその目が。

「・・何、拗ねてるの?」

ちょっと面白すぎてつい聞いてしまった。
もしこのペットに本当に耳と尻尾が付いていたなら、今朝はそわそわと動かしていた耳は今や完全に伏せって尻尾は力なく垂れていたことだろう。

「・・・・」

拗ねてないと言えば嘘になる、もしくは強がりにしか見えないし、拗ねていると言ってもそれはそれで大人げなく恥ずかしい。
そんなところだろうか。
答えづらい問いを投げかけた上で内心ニヤニヤとその動向を窺えば、しばらくムッとした顔でこちらを見ていた相手は椅子の背に顎を乗せてふいと視線を逸らせた。
かわいい。
いつもこんななら年下らしくてもっと可愛がりたくもなると言うのに。
普段、年下でペットの分際でこちらをからかってくる可愛げの無いユーリに対するささやかな仕返しだ。
そんなユーリは無言でバリバリとパッケージを乱暴に開けて早速ボリボリと例の黒い菓子を食べ始めた。
食べながら席を立つ相手に、さすがにイジメすぎたかと飲み物でも入れてあげようとこちらも席を立つ。

「ユーリ、ココアでいい?」

「・・・・・」

「ユーリ?」

その場で立ち上がったままモグモグと咀嚼しているユーリに問いかけるも返って来ない返事に、これは相当拗ねさせたかと返事は諦めて勝手にココアを作り始める。
マグカップに牛乳を注いでレンジにかける。
先に粉を入れてしまうと上手く溶けずにだまになるので、先に牛乳をあっためるといいと教えてくれたのはユーリだった。
ちらと背後の気配を探るもやっぱり視線は明後日の方向に向けている相手に、ちょっとやり過ぎたかなと少しこちらも気落ちしてきた。
でも、作れなかったんだから仕方が無いじゃないか。
料理を何となくの感覚で済まそうとする は菓子作りなんていう、あの量も温度も順番もきっちりしないとちゃんとしたものが出来ないという代物に手を出すなんて怖いことはしたくなかった。
更に言うなら、料理も美味しくお菓子作りまで完璧にこなしてしまう同居人の前ではとてもじゃないが出来ない。
極めつけがその同居人が男。

「・・・・・」

せめて、作れはしなくともちゃんと美味しそうなもの買えばよかったかな。
でも何か、その意識している感が出てしまうのも嫌だったのだ。
同居しているけれど、そういうんじゃないんだからと変なところに拘っている。
そんな自分も大人げなかったかもしれない。
何だかんだで料理や家事や住んでる上で色んなことを手伝ってもらって、気を使わせていることだってあるだろう。
日頃の働きに感謝して、とでも軽くいってそれでちゃんと・・・。

ピー、ピー、ピー、

温まったマグカップを二つ取り出す。
ひとつにココアを、もうひとつにココアとひと匙の砂糖を入れてくるくるとスプーンでかき混ぜる。
よし、明日また何か甘いもの買って来よう。
一日遅れちゃったけど、と今日の自分を謝ろう。
自分の分のココアを一口飲んで一息ついて、そして振り返った。

「ユーリ」

「・・・・・」

もぐもぐと口を動かしながらやっと、チラとこちらを見た相手にマグカップの持ち手を回して手渡す。
瞬きをしてココアを見つめて受け取る相手にほっとした。
怒っているわけでは無さそうだ、よかっ・・

「ほら」

「え、んぐ」

マグカップを受け取るのと同時に、口元に突き付けられたのは一口残った例の菓子だ。
驚く間に最後の一口を口に突っ込まれ、目を白黒させながらそれを咀嚼する。

「ひとつしか買ってなかったろ」

もぐもぐと口を動かしながら見上げた相手は、ココアを一口飲んで少し目を細めてそしてその少し緩まった目でまたこちらを見た。

も好きだろ、コレ」

「ん、・・うん、まあ好きだけど」

でもこれはユーリにあげようと思って買ったものだから、とユーリの謎な行動に戸惑えば頭の上に手が伸びてくしゃくしゃと撫でられる。

「ありがとな」

「・・・・・」

ああ、自分はなんと大人げなかったか。
これではもう何も言えないじゃないか。




撫でた手の平の下で、俯いて両手に持ったマグカップの中のココアの表面を見ていた を見下ろす。
何を考えてるのか下がった眉に、自分のさっきまでの振る舞いを途端に後悔する。
もらえなかったからって拗ねるとか、・・ガキかっての。
例え自分がそういう相手、・・恋人じゃ無かったとしてもこれだけ近いところで暮らしている男として、ちょっとは期待してもいいんじゃないかとつい欲が出てしまった。
自分の分に足されたひと匙の砂糖、それでいいじゃないか。
・・いや、やっぱちょっと物足りないかもしれないけど。
甘いココアを一口飲む。

明日、何か甘いモン作って、そんで と一緒に食べる。
いっそ一緒に作るってのもいいかもしれないな。




◆アトガキ



2017.2.15



すいません、一日遅れちゃいました。
たぶん今日っていうか明けた15日、●は今度こそ贈り物に相応しいものを選ぼうと思って買い物に行こうとするも、一緒に材料を買い出しに付いて行こうとするユーリとすったもんだすると思います。
何を選ぶかまでは見られたくない●と、一緒に作るからには何を作ろうかとか話しながら一緒に材料やデコレーションするものとか選びたくってじりじりするユーリ。
軽い喧嘩、のち一緒に作ることになると思います。



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