「・・・ボクには聞こえませんでした」

ちょっと困ったように眉を下げてこちらを見る物吉貞宗様は繋いだ手をしっかり掴んでいる。その顔と泣き声が聞こえたような気がした細い道を交互に見る。
もし本当に迷子がいるなら保護するなり中央の時計塔にある迷子センターまで連れて行くなりすべきでそれが今の見回りの仕事のひとつでもあるわけなのだが、どういうことか物吉貞宗様の反応は鈍い。
というか、そもそも偵察に優れた脇差の耳に聞こえていないものが所詮はただの人である自分の耳に聞こえるわけがない。きっと何かを聞き間違えたのだろう。

「すいません、たぶん気のせいです。今は何も聞こえませんし」
「・・そうですか!それなら良かったです」

にこっと笑う物吉貞宗様について細い道を通り過ぎそのまま通りを行けば、いつの間にか交代の時間となっていた。今日はこの人混みなので午後の見回りも短時間で交代し、始末書を書くようなトラブルも無かったし端末で記入した報告書を手早く送れば後はもう自由時間だ。

「さっきの魔女の看板がぶらさがってるパンやに寄って帰ろうと思っているんですが、物吉貞宗様はどうしますか?」
「是非、ボクもご一緒させてください」
「では一緒に行きましょう。かぼちゃパンまだありますかね」
「きっとありますよ!」

はたしてパン屋によればかぼちゃパンは丁度ラスト2個となっていて、これはやはり物吉貞宗様の幸運のおかげだろうと思えば、もう売り切りということで中の餡が薄っすらと透けて見える白いおばけパンも値引きで買うことが出来た。
その後も、美味しそうな肉まんやさんの匂いにつられれば見回りお疲れさまという労いの言葉と共にかぼちゃ餡まんと黒い皮に蝙蝠の絵が描いてある鶏肉のトマト煮まんをそれぞれ手渡され、道行く人にお菓子を配っているという物好きな吸血鬼の恰好をした燭台切光忠様と狼の耳と尻尾と手袋を付けた太鼓鐘貞宗様に杖の形をしたチュロスと棒付きキャンディーとアイシングで蜘蛛の巣が描かれたクッキーのお菓子をもらい、屯所に戻れば神父の恰好が実に似合うへし切長谷部様に綺麗な琥珀色のべっ甲飴を手渡される。

「え、ありがとうございます。・・これ、へし切長谷部様が作られたんですか?」
「俺は砂糖を溶かしていただけだ。・・歌仙兼定が迷いに迷っていた」
「ああ、なるほど。それで」

親指と人差し指でちょうど丸を作ったくらいの大きさのべっ甲飴は、西洋の墓と東洋の墓が仲良く並んでいるデザインで、歌仙兼定様の葛藤が目に浮かぶようだった。
「ふふ、いっぱいになっちゃいましたね」
「肉まんだけでお腹いっぱいになりそうです」
「お、帰ってきたな。おかえり、って、こりゃ大量だな!」





→ 「あ、丁度良いところに。一緒に食べませんか?」










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