「あっ、ごめんなさい・・大丈夫?」

五虎退様に手を引かれて走っていたからか急に飛び出してきた影に気付かず、脇腹に衝撃を受けたことでようやく誰かにぶつかってしまったことに気が付いた。繋いだ手が離れたことでたたらを踏んでようやく立ち止まって振り返れば、はしゃいで走り回っていたのだろう、ぶつかったと思われる男の子が倒れていて慌てて駆け寄って声を掛ける。
しゃがんで様子を窺えば、転んで地面に擦ったのか抱えた細い足に血がじんわり滲み始めていた。そういえばと思い出して袖をめくり、”包帯”の鶴丸様が傷も無いのに巻いてきた包帯を外ず。こちらに触れていなかった辺りを男の子の傷口に当ててくるくると巻いて結べば、少し潤んでいた瞳できょとりとこちらを見上げてきた。

「ぶつかってごめんね、痛かったでしょう」
「う、ううん。これ、いいの?」
「お家帰ったらちゃんと消毒してね」

そう伝えれば、うんと小さく頷いて立ち上がる。その周りにどこから現れたのか、子どもが数人集まって来ていた。

「あ、いいなあそれ」
「ねえ、私にもちょうだい」
「僕これが良い!」
「え?え?何」

手当てをされていたのが羨ましかったのか、いやむしろ包帯を巻いているのが良いと思ったのだろうか。男の子の巻いた包帯を見て、いいなずるいと繰り返す。ハロウィンだし、仮装のひとつとして自分たちも包帯を巻きたかったのかもしれない。

「ごめん、包帯はそれしか持ってない」
「なら、それをちょうだい」

有無を言わさず手を引っ張られる。かと思えば指先を強く引っ張って、手は離された。何が何やら分からぬうちに、ありがとう!と笑う女の子にまたずるいずるいと子どもたちが群がって、その目がまたひたりとこちらを向いた。何だろう、・・怖い。

「えっと、あげられるもの・・あ、飴があるんだった」
「飴!欲しい、ちょうだいー」
「・・私だって、欲しいのに」
「ちょっと待ってね、えっと・・わっ??!」
「俺これとーったぁ!」
「「ああー!」」

そうだった、飴があったと言えばわっと小さな歓声も上がる。その合間に混ざった何やら不満そうな声も聞こえるがとりあえず飴の入った缶はどこだったかと探してごそごそとしていれば、急に後ろから何かがぶつかってきた。
声から恐らくまた別の子どものようだが抱き着かれたように肩に腕を回されたそれがまたさっと離れていけば、もう辺りは子供たちのブーイングが響き渡って正直耳を塞ぎたいくらいうるさい。さすがにこれはそろそろ宥めなければならないだろう、そもそもこの子どもたちはどの子の子でどこかに保護者様はいらっしゃいますか、と辺りを見渡した目に映るもの。

「え、・・鬼火?」

いやいや、釣り竿とかの糸の先に付けられた脅かす用の玩具ですよね鶴丸様があんなの持ってるのいつか見たことありますし、とか脳内が勝手に早口でまくし立てる間にも辺りが驚くほど薄暗くなっていて、店も人混みも全てが黒く濃い闇を纏って蠢いていることに気が付いた。
ここは、どこだ。シンボルである時の大時計は32番街のどこにいたって見えるはずなのにそれがない。背を冷や汗が伝っていくのが分かった。





→ 「ねえ、おねえちゃん・・・」










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