プリンにババロア、コンポートにパンケーキ。
ローウェル先輩、もといローウェルコック長が次々と手際よく作り上げていくスイーツを運んだり、お茶のおかわりを注いだりと給仕しているとメイド服を着ていることも何だか気にならなくなってきた。
そうこうしている内に、カロルくんが気になっている別ギルド所属の女の子ナンちゃんのお誘いによって出かけて行ったり、それを冷かそうとするレイヴンさんやパティちゃんについてジュディスさんも街中を楽しんでくるわと出て行ったり、ハロウィン用に開かれた露店を冷かしにリタが出かけてくるというのにエステルさんとその護衛を兼ねてフレンさんも出て行って。

「結局、みんな出ていっちまったな」

エプロンの裾で手を拭きながらコック長、もといユーリさんがキッチンから出てくる。
他のギルドメンバーも出払って、気が付いたらアジトに2人きり。

「レイヴンさんはダングレストのレストランでのハロウィン限定ディナーを気にしてたから、もしかしたらジュディスさんを誘って食べてくる予定かもしれません」

「そういやパティもここに来るまでに色んな屋台が出てたって言ってたな」

「みんな、意外とよく食べますね」

ユーリさんが作ったスイーツもかなりの量だった筈だが、それも残りあとわずか。
給仕をする合間に少しずつ摘まんではいたが、まだしっかり食べていなかったなと空いた席に座って皿に盛られたミニパンケーキに手を伸ばした。
手の平サイズのパンケーキ生地にスプーンでクリームを乗せて二つ折りにして口に運ぶ。

「ローウェルコック長のスイーツほんと美味しいです」

「そりゃ良かった」

ふわふわの狐色に良く泡立てられた甘い生クリーム。
動き回っていたからまだまだお腹が空いていた。
もう1枚と手に取って、今度はクリームの隣に置いてあるジャムの瓶からジャムを掬い上げた。

「いただき」

「っ・・あ」

スプーンを持った手を後ろから掴まれてそのまま持ち上げられた先、ニンマリと笑う先輩の口の中にスプーンはジャムごとパクリと食べられてしまった。

「もう、ジャムが食べたいなら自分でスプーン持ってきてくださいよ」

食べられてしまったスプーンを取り戻してジャムを掬うわけにはいかず、ジャムは諦めてもう一度クリームに手を伸ばす。
そのクリームの容器がヒョイッと持ち上げられて、誘導されるように視線はクリームからそれを持ち上げた相手の得意げな顔へ。

「・・・先輩」

「なんだ、不満そうだな」

この人もほんとそこそこイイ歳してるのに、何でそう悪戯や意地悪を嬉々としてやるんだか。
困るこっちの顔を見て楽しそうに笑うその顔が少年のようで。

「・・っ?!何ですか、」

急に笑いを収めた顔が目の前に迫って驚いて顔を引く。

「いや、何か失礼なこと考えてそうな気配が」

「・・・気のせいじゃないですか」

童顔だな、と思ったのは事実で視線が微かに泳ぐ。

「ふぅん」

多少納得のいかない顔をしながらもすっと屈めていた上半身が引かれて、ほっと胸を撫でおろした。

「そういや」

エプロンを解いてくるくると丸めて空いた席に置いて、ユーリさんがちらとコチラを見下ろしてくる。
何ですか?と視線で問えば、隣の椅子を引いて座ったユーリさんがテーブルの上に頬杖をつく。
行儀悪く足を組んで下から覗き込むようにしてくる相手の視線に、去年のハロウィンの悪夢を思い出してそっと足を動かした。

「言ってなかったと思って、な」

すすす、と片足を引いて椅子から立ち上がる算段をしていれば、膝の上においていた手を捕まえられて肩がギクリと跳ね上がった。
先ほど引っ込んだはずの意地悪そうな光がまたその瞳に灯っている。
そうして薄い唇がそっと言葉を紡いだ。

「トリックオアトリート、 ?」

そこでやっとこの大量のお菓子の意図を知る。
ハロウィンお決まりのセリフはさすがにこれだけのお菓子を前にすれば出てこない。
それに加えてこのお菓子を用意したのはローウェル先輩その人だ。
彼にその言葉をいうことの虚しさったら無いし、唱えることすらうっかり忘れていた。

「、返事」

「・・・・」

くっ、と噛みしめたこちらの顔を見て返事を催促する相手の瞳は更に細まる。
楽しげなそれから、微かに意味合いを変えた色へとかわっていく瞳から焦りつつも目が離せない。

「答えられないんなら、」

手ごと引っ張られた上半身を抱え込まれて、肩口に顎が置かれる。
オレが決めちまってイイんだよな?と耳元に流し込まれる低い声に腰がざわりと反応する。

「ちょ、ちょっと・・」

「他に持って無いなら、仕方ねえよな」

笑う吐息が首にかかって摺り寄せられる素肌に、顔に熱が集まるのを感じる。

「・・熱い」

「ひ、ゃっ」

言って首筋をぺろりと舐めあげられ、ビクリと跳ねる体を抱え込む腕が宥める様にゆっくりと撫でる。
ブラウスごしに背筋を辿る様にそっと走る指先を感じくすぐったいような、何かゾクゾクとした感覚が肌を粟立たせていく。

「待っ・・、っや」

押し返そうとする手を握られ、留め具を外された隙間からのぞく首筋から襟ぐりにかけて舌が這う。
べろりと舐めあげては尖らせた舌先が窪みをえぐり、柔らかい弾力を持った唇がその後をなぞる様に辿って、鎖骨に辿りついたところでじゅっと強めに吸われた。

「ふ、あっ・・、んんっ」

「・・ん、」

身の内側に溜まっていきそうな熱を逃がそうと薄く開いた口元を食むように塞がれて息が苦しい。
握られていた手がそっと外されて、大腿と曲線にそってスカートの境目を撫でていく。
柔らかくて熱い舌が咥内をくすぐる様に舐めて、溜まった唾液を必死に嚥下する首元をさらりと零れ落ちた髪の先が撫でるのにさえ肌が敏感に反応する。

「っはぁ、・・甘い」

「・・は、っは」

ペロリと唇の上をなぞる赤い舌がひどく厭らしく見える。
そんな光景を目を瞑り視界から追いやって必死に息を吸ってぼんやりとし出す脳に酸素を運べば、ふとあることを思い出した。

「んじゃ、続きは・・」

「待った」

「・・・」

上のベッドがある部屋に移動しようぜ、と伸ばされた腕に抵抗すればその眉が不満げに寄る。

「・・まだシ足りないんだけど」

「知るか、・・いやいや、だからちょっと待ってくださいって、ば」

即答すれば、無言のまま強引に運ぼうと屈みこんだユーリさんの腕に囲われそうになり、慌てて手を突っぱねる。
ムッとした顔で迫るユーリ先輩の顔を片手で押しやりながら、片方の手をメイド服のポケットに突っ込む。
そう、この部屋に入る前。
フレンさんに会ってその手にそっと握られたものがあったはず。

「!あった」

「何・・、って・・・あー」

何だよソレ、と片手で顔を抑えるユーリさんの眼前にポケットから取り出したものを 付きつける。

「ド・ウ・ゾ」

コロリと手の平に転がったのは包み紙の両脇を可愛らしく絞った飴玉で。
念のため、と青い瞳に悪戯そうな光を瞬かせたのは彼の幼馴染のフレン騎士団長その人だ。
顔を合わせれば嫌味と皮肉を応酬し、手合せは周囲の(彼らの間柄を知らぬ)者を引かせる勢いの2人はまるで正反対の中身と外見だけど、あの悪戯っぽい光を灯す少年の様な雰囲気は目の前で項垂れる相手にも良く見るそれに似ている。

「ソレ、絶対あいつの入れ知恵だろ・・・・。次は覚えてろよ、

「お、お手柔らかにー・・」

取りあえず、今年は逃げ切れそうです。




 <The end!









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