「・・・いない。よし」
建物と建物の間から顔を覗かせて次の通りを確認する。
橙色の薄暗い空の下、行きかう人は決して少なくは無いが目的の人物の背は周りの人よりは多少抜きんでているから、こう見回して目につかないということはここにはいないのだろう。
ほっ、と息を吐いた瞬間、ポンと肩を叩かれた。
「っ?!!」
思わずびくついてしまったが、すぐに聞こえてきた声に止めていた息を盛大に吐き出して傍の壁に寄り掛かった。
「よっちゃん・・ってなぁにソノ反応」
「レイヴンさん、もう脅かさないでくださいよ」
「そんなに驚かれるようなことした覚えは無いんダケド」
私が飛びのいたことで出来た距離に、伸ばした手をそのままプラプラと所在無げに揺らして少し困ったように眉を下げて言う相手は、トレードマークの紫の羽織の背でひとくくりにしたボサボサの髪を揺らした。
「で、こんなとこで何怪しいコトしてんの。おっさんにちょっと言ってみなさいよ」
「え、イヤです」
「え、何で即答・・」
おっさん傷付くー、と語尾を伸ばしてぶうぶうと文句を垂れる相手は無視をする。
いつもならここまで邪険にすることもないけれど、今日に限ってはそんなことをしている暇は無い。
何はともかく見つかる前にさっさと家につかなくてはならないのだ。
「ごめんなさい、レイヴンさん私今すごく急いでるんで」
「ええ、本当にどうしたの。さっきから妙にコソコソそわそわしてるけど」
取りあえずいないことは確認できた通りを早足で横切る後ろを、羽織の袖に両手を引っ込めたレイヴンさんがひょこひょことついてくる。
これでも、天を射る矢(アルトスク)に所属している幹部クラスの人物だ。
この街の人間なら大抵の人はその顔を知ってる筈だが、レイヴンさんはその場に溶け込むという技を会得しているようでそこそこ派手な格好ながら今のところ誰にも声をかけられていない。
注目されるような行動は避けたい今は有難いが、思っている傍からレイヴンさんの方から話しかけてしまった。
お店の角に立っているメイドの格好をした女性に鼻の下を伸ばしている。
置いていこうと歩みを止めぬまま数歩進んだ辺りで名前を呼ばれてしまった。
「ちょっとー置いていかないでよちゃんっ。・・あっまた後で遊びに来るから~」
こっちに小走りで近寄りながら、店のお姉さんに手を振っている。
話しかけられていたメイド服のお姉さんとその横に立っていたウサギ耳のお姉さんがにこやかに手を振り返している。
マズイ、目立っている。
早歩きのスピードを上げたのに、小走りで追いかけてきたレイヴンさんに追いつかれてしまった。
さっさと撒けば良かったと思うのも今さらだ。
「本当に、どうしたってのよ」
多少大きく息を吐いて隣に並ぶ相手を胡乱気に見上げる。
こんなにしつこい人だっただろうか。
確かに普段から、そのちゃらんぽらんな形に似合わず意外と人の心の機微に聡く落ち込んでいればさりげなく励ましてくれたり相談に乗ってくれたりと面倒見は良い相手なのだが。
それにしても、だ。
「・・レイヴンさんこそ、私に何か用ですか?」
カマをかけてみる。
違うなら、違うでいいのだが、何か嫌な予感がする。
彼らしくない、違和感のような・・・。
「、え。いやいやおれからは何も無いけどね」
一瞬、レイヴンの目が泳いだ気がして、眉間に皺が寄る。
疑わしい。
「ちょっとちゃんの様子が変だったから、どうしたのかなーと思って心配してるだけじゃない」
こっちの視線に少したじろいで、両手を振りながら弁解のように続ける。
「・・・・・」
信じてよいものか迷うが、先は急いだ方が良い。
小さく息を吐いて、また家路へと足を向ける。
つばの広い帽子にマントを羽織り大ぶりな木の杖を持った人物と帽子の先や袖に鈴をつけた奇抜な色合いの道化師とすれ違う。
「そういや今日はハロウィンだったのね」
彼らだけでなく、街中のいたるところで普段と違う衣装を身にまとった人々が楽しそうに談笑して酒やつまみを飲み食いしている。
「なかなか楽しそうでいいわね、こーいうのも」
キョロキョロと辺りを見回す相手にどうにも賛同しかねる状況なだけ、上手く返事が出来ない。
そう、今日はハロウィンだ。
ハロウィンと言えば、お菓子と仮装と相場が決まっている。
ここギルドの街ダングレストも酒を飲んでのお祭り騒ぎが出来ればいい、イベント事が好きな人たちばかりだ。
お菓子、なんていう可愛らしいものより仮装している人々が持つのはどちらかというと酒とつまみなのだが、そこはまぁ荒くれ者らしいといっちゃらしい。
普段なら大柄な男が謎の被り物をしていたり、この街に似合わない妖精やお姫様といった可愛らしい恰好が見れたりといったこんな面白い状況を楽しむことが出来たのだが。
「私は早く帰りたいです・・・」
今だけはそんな心の余裕が無い。
それもこれも、甘いものに目が無くちょっと趣味嗜好がおかしな人物が関わっているからで。
「何でよ。ちゃんもああいう格好似合うわよ。折角なんだからどっか貸し衣装のとこいって何か着てみない?」
「イヤです無理です帰ります」
「そんなバッサリ・・・」
あまりの取り付く島の無さにガックリと肩を落とすレイヴンさんに、だがゴメンナサイと言う気にはなれない。
どうして私がそんな似合わない恰好やらをしなければいけないのだ。
「おっさんがお金出したげるのにー」
なるほど、そういう商売してるところに出入りしているだけある、ちょっと変態チックなオジサマのワード。
ちなみに返す言葉は、申し訳ありませんがそういうサービスはしておりませんので、の一択だ。
「そういや、セーネンはどったの?」
ぎくりと肩が跳ねる。
そう、そこが問題なのだ。
「確かおたくんところのギルドの仕事、今日終わってみんな自由にしてるんでないの?」
「・・相変わらず、情報早いですね」
すごいでしょ、と笑って見せるレイヴンさんは普段どこでどうしてるか分からないのに、こちらの行動は筒抜けだったりするから油断ならない。
どこにレイヴンさんと取引してる情報屋がいるのか、誰がそうなのか何も分からないのだが、悪いようにはしないからそう警戒しなさんなと言われたのはもうだいぶ前のことで。
そう言われても、ちょっと気構えてしまうのは仕方が無いというもの。
「こんな日なのに、真っ直ぐ帰るなんて・・やっぱおかしーじゃない?おっさん、気になっちゃって気になっちゃって」
「明日でも明後日でも、今日を無事乗り切れたらいくらでも話してあげますから」
今はもう放って置いて欲しいのだ、と言外に告げるも拗ねた様子を見せるレイヴンさんにそろそろウザイと最終勧告をしそうな自分の口を何とか閉ざす。
「青年のお気に入りのちゃんが、お菓子も用意してあげないなんて」
「お気に入りとか、そういうの無いですから。それにお菓子なんて用意するだけ無駄・・」
「ふうん、ムダ、ね」
言ってからハッとした。
余計なコトを言った。
それでは何かあると言ったも同然だ。
いや、もう言ってしまったものは仕方ない。
もう家も近いし後はここを真っ直ぐ行けばいい。
「・・・だって、セーネン」
「へーぇ」
もうレイヴンさんなんて無視だムシ、と歩き出そうとした背後から聞こえたその声に背筋がサッと冷えた。
恐る恐る後ろを振り向く。
「ロ・・ローウェル先輩・・」
いつの間にそこにいたのだろうレイヴンさんの隣で片手を腰に当てて、さっきまでその人影が視界にいないかずっと確認していた相手が立っている。
ちなみにいうと、探していたわけでは断じて無い。
依頼完了の報告の合間に一足先に抜け出て、見つからないようにずっと回り道をして家路を急いでいたのに。
「あんれ。おたく、まだ名前で呼んでもらってないの?」
「黙れ、おっさん」
ふふん、とちょっと得意げなレイヴンさんだが、そういう意味じゃないですから!と心の中で反論する。
だってレイヴンさんはファミリーネーム知らないし・・そもそもあるんだろうか。
あったら間違いなくソッチで呼んでるし、と考えながら、ジリジリと後ずさる。
ここから一気にダッシュして家に逃げ込んで扉を閉めて鍵をかける。
レイヴンさんと何やら話し合っているユーリさんの動きを警戒しながら、脳内シュミレーションを繰り返す。
走り出したらもう絶対振り向くな、というか振り向いちゃいけないと言い聞かせてスッと息を吸い込む。
・・よし、行ける。
「、あ、ちゃん」
踏み出しかけた足を止める様にレイヴンに話しかけられる。
だがもうスタートダッシュを始めた足を止めることは出来ない。
くるっと踵を返しつつ、家のある方へ足を踏み出す。
その踵が離れるかどうかの一瞬。
「逃げたらお仕置き、追加な」
「??!?」
ぎょっとして思わず踏み出しかけた足が止まる。
「えー何ソレ青年、その響き何かヤラシ、っぶ」
おっさんは黙ってろとばかりに隣のレイヴンさんを見もせずにチョップを決めた長身が、スタスタとこちらに向かって歩いてくるのに走り出すことが出来なかった己を呪う。
「さて、」
「えっと・・はい、ローウェル先輩、依頼完了お疲れ様でした」
言い忘れちゃってましたよね、と乾いた笑みで続けてそれじゃ、と小さく手を上げてみたものの。
「ユーリ」
「あ、えっとユーリ先輩・・ちょっとあのー手を離して欲しいなーとか・・」
「今日が何の日か、分かってんだろ・・?」
「ええーっと・・」
イヤというくらい分かってますケド、とは思っても言えない。
「。トリックオアトリート?」
「どっちも遠慮して欲しいなーとか・・」
「んじゃイタズラな」
「あ、そうだ!先輩が好きなスイーツのお店でハロウィン限定スイーツが!」
「もう食べた」
バッサリ。
早い、というかさすがというべきか。
っていうか依頼でダングレスト出てたのにいつ・・・、という疑問はすぐに解消される。
「さっきな」
「さっきかよ」
思わず敬語抜きでツッコミしてしまった。
余裕だな、とは思うが今この状態で言えるわけが無い。
無いのは自分の方だ。
「えっと、向こうの定食屋でデザートの新商品が出たって」
「もうとっくに食った」
「・・・ケーキ屋で奢り・・」
「それはまた今度よろしくな」
むしろ今すぐ、また今度よろしく、して解放して欲しい。
ニッコリ笑うその顔が怖い。
言い合いながら引き抜こうとする腕はガッチリ掴まれたままだ。
「んじゃ、おっさんはそろそろ帰るわー・・」
こっちのやり取りに何かを感じ取ったのかソロソロと離れはじめるレイヴンさんに決定的なひと言が放たれた。
「おう。足止め、ありがとうなおっさん」
「ああー!シー!言っちゃ駄目だってセーネ」
「やっぱりか!レイヴンさん!!たいして信じちゃいなかったケド!!」
「ええーヒドイ・・」
「自業自得!!」
どうりでしつこく纏わりついてきたと思った、とギッと睨みつければレイヴンさんはうっと怯む。
さっき言ってたスイーツを食べてる間の尾行でも頼んだのだろうか。
そのままずっとスイーツ食ってればよかったのに、とユーリさんを睨みつけてもどこ吹く風だ。
「覚えておいてくださいね、レイヴンさん」
「えっと、あのイタイのはヤメてね」
「その口の中に新作スイーツ詰め込んであげますから、歯ぁ磨いて待っててください」
「ゴメンナサイ」
「許さない。・・・っひゃ!?」
睨みつけていた視界が急にぐるんと揺れる。
「んな勿体ない事させるかよ」
「うぐ、ちょ、ローウェル先輩下して・・」
「じゃーな、おっさん」
ぐるんと振り向いてレイヴンさんに挨拶して、またぐるんと向きを変えるその動きに頭が振り回されて肩に担がれたお腹が圧迫されて苦しい。
呻きながら訴えてみたが、当然と言うか無視をされる。
その足が向かう先は帰路への道を手前で曲がったいつか通ったことのある道・・・。
「あの、」
「ん?どうした」
「いや・・なんでもないデス」
観念する他なく、ユーリさんの背中で力なく揺れながら溜息をついた。
「んじゃ、コレとコレ、な」
有無を言わさず渡された黒い何かと共に脱衣所に押し込められた。
手にしたモノと見つめ合うこと数秒。
「ちょ!着ませんしつけませんよこんなモノ!!」
「だーいじょうぶだって、似合うよ」
「んなこた聞いてませんよ」
無駄にイイ声で実に優しげに言われたって、無理なものは無理だ。
わなわなとふるえる手に握りしめられているのは、猫耳ヘッドセットと何故か猫の尻尾がついたショートパンツである。
ウソだろう、何かの冗談だと言って欲しい。
ってか、ユーリさんこんな趣味が?
サンタ服の時と言い、レイヴンさんに何か悪い影響受けてるんじゃないか、変態の方向へと・・・。
まさかそう来たかと愕然としている耳にユーリさんの声が届く。
「あー、前々回の依頼のとき、疲れて爆睡したをおぶって帰ったのは誰だったかなー」
「?!!あ、あのことはもう謝ったじゃないですか!!」
シレっと棒読みな声が扉越しに聞こえて思わず素っ頓狂な声を返してしまう。
長時間慣れない作業(大きさ色形多種多様なビーズの中に落ちてしまった本物の宝石を探し出してほしいとか言う実に地味な作業だったが、その割には報酬が良くてカロルくんが飛びついたのは言うまでも無い)で両目を酷使し続け、夜更けにやっと探し出せたときには張り詰めた糸が切れたかのように、気が抜けた体からは意識も一緒に飛び立ってしまったらしい。
気が付いたらギルドの仮眠室に寝かされていて、迎えに来てくれたユーリさんに背負われて帰ってきたらしいと聞いて飛び起きて謝りにいったのだった。
その時は「イイって、気にすんな」と実に頼もしい先輩然とした態度だったのに。
それがまさかツケになっていたとは、どんな罠だと訴えたい。
「まあまあ、コレでチャラにしてやるって」
「ぐっ・・」
そう言われては、もう何も言い返す気力も無く。
舌打ちしたい気分で動きやすいように履いていたパンツを脱いで、渋々渡されたその黒いショートパンツに足を通す。
おしりの方に垂れているものからは極力目をそらした。 次に、手にした猫耳とにらみ合うこと数分。
「待ちくたびれてんだけど」
「そのまま待ちくたびれて疲れて寝てしまえ」
「じゃあるまいし、この程度じゃ眠気はこねえな」
さらっと返された嫌味に奥歯を噛みしめる。
息を吸って、吐く。
こうなりゃ女は度胸だ。
ジュディスさんが常日頃言っているコトを脳内で呪文のように繰り返して、意を決して手にしたソレをガッっと頭に突き刺すように嵌めてその勢いのまま、バタンッと扉を開けた。
ゴガンッと鈍い音と共に扉が僅かに跳ね返ってくる。
「~~~~っ、ってぇ!!」
「あ、スイマセン」
まさかそんなすぐソコにいるとは思ってもみなかったので素直に謝る。
今度はそっと開けて扉の裏側を覗けば、額を抑えて痛みを堪える顔をしたユーリさんがいた。
「人んちの扉壊す気かよ・・」
「あ、自分の額はどうでもいいんですね」
「良くねーけど。壊れたら弁償しろよ」
「大丈夫ですよ、この程度の扉、ローウェル先輩ならちょちょいのちょいですよ」
実際、ユーリさんが引き受ける仕事の中には討伐の他に大工仕事に含まれるものも結構あって、修理修繕は以前も良くやっていたということで引き受けまくっているせいか、凛々の明星は一部から大工ギルドと呼ばれている。
あんな(金にがめつくとも)真っ直ぐに育っている(と思っていた)ボス、カロルくんでさえ実は錠前破りが得意だと風の噂で知って、このギルドの行く末がちょっと見えなくなった瞬間だった。
「ん、やっぱ似合うな」
「さいですか・・」
額の痛みは山を越えたのか、満足そうにコチラを眺めて腕を組んでうんうんと頷く相手を前に、もう反応する気も失せて大人しく死んだ目で対応する。
「やっぱつけるなら猫耳だな」
「・・・・・」
背は高いし綺麗な長い髪と整った顔立ち、腕っぷしも頼りがいもある。
カフェの知り合いの店員や他のギルドの女性メンバーがどういう目でユーリさんを見ているかぐらい分かるし、普通にしていれば本当に恰好いいと思う。
だというのに。
「・・ホント残念なイケメン」
「んー、何か言ったか?」
うん?と聞いてくる相手からサッと視線をそらす。
そらした先で揺れている黒く細長い物体に、またふっと遠い目になる。
黒い尻尾、黒い猫耳。
どこで手に入れたんだ、これ。
まさかレイヴンさんじゃないよね、と思うも即座に有りうると心中で返す。
そんなもんをわざわざ入手して家で保管していたのかとツッコミたくなるような猫コスプレグッズを、今現在、有無を言わさず装着されている自分の人権を問いたい。
「!?ゃ、っん」
首筋をするりと指先で撫でられて思わずぞくりとする。
非難する目を向けて、・・後悔する。
その目は魔物相手に向けた方が人類にとっても、私にとっても良い結果になるに違いない。
だからその、そういう獲物を前にしたようなイキイキとした目で人のこと見るのは止めてください。
「お、お触り厳禁」
「何を今さら」
実を言えば髪の毛を人に弄られるのはイヤじゃないから、頭撫でられたり指先で梳かれるとつい目を閉じちゃうのだけれど、頬っぺたとか首筋とか耳とか触ってくるのはどうにもくすぐったくて仕方ない。
しかもニヤニヤしているその顔が、本当にイケメン残念過ぎる。
「もーいつまで、これ、やってなきゃいけな・・っひ、んっ」
耳元をさわさわと弄ぶ指先に、思わずゾクンと背がしなる。
「イイ声で鳴いたら、な」
そのままベッドまで運ばれそうな気配に、思わず伸ばされていた手の先に噛みついた。
「い゛っ」
噛まれた手をさっと引っ込めてコチラを見下ろしたユーリさんの目は・・。
あ、しまった。
どうやらマズいスイッチを押してしまったようで、さっと顔が青ざめる。
ユーリさんが最高に凶悪な顔をしていらっしゃる。
「・・お仕置き、決定な」
「ちょ、ま、勘弁っ」
薄らと開いた口元に下がろうとした体はぐんと前に引き寄せられて、一瞬のうちに近づいた顔がすっと下がって視界から消えて。
「?!っイ、・・ったぁ」
ガブリと首筋に鋭く鈍い痛みが走る。
次いでその箇所をなぞる様に舌が這わされて、ビクリと体が震えた。
その後を指先がなぞっていくのを感じるも、力が抜けかけた手では上手く押し返すことも払いのけることも出来ない。
ああ、もうだから本当にさっさと帰りたかったのに。
どう考えても自分が仮装するなんてことしなさそうなのに、ユーリさんが何かパーティグッズ持ってたらしいとか、そんな目撃情報が依頼完了間近なちょっと気が抜けたギルドメンバーの中で噂として流れてて、そういやハロウィンだしな、とかそういやボスにの予定はこの後入れてないかとか確認してたの聞いたとか、とか。
その時は、笑って冗談だろうと受け流していた。
でも用心しておくに越したことは無いと、お菓子は用意しとけよーと別れ際にされたアドバイスも放り投げて急ぎ帰路についたあの時の自分を殴りたい。
「ま、オレにとっちゃドッチも変わりねえんだけど」
そう言って笑うユーリさんの声が耳元に零れ落ちてきて、脳内を甘くぐずぐずに溶かしていった。
◆◇*------------*◇◆
トリックアンドトリート。
甘いものも悪戯もアンタがいれば一石二鳥。
ああ、あと噛み癖のある後輩は躾けないと。
どっちが上かって、な?
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