白うさぎのフレン 2



「・・・・」

俺よりデカい手にまたも取られた己の手の小ささにやるせない気持ちで視線を逸らす。
何もしていないのに何故かこの白く長い耳を持ったうさぎ野郎に気に入られて、初日から撫でさすられまくった。
当然警戒した俺は(うさぎといっても相手は自分よりデカいんだから当然)何度も会ってくれという誘いを断り続けたのだが。

「・・手が、荒れているね」

沈痛そうに目元を顰めて、心底労わるように手の平を指で何度も辿られる。

「仕事上、水に触れるので」

言いつつ、さりげなく引こうとする手首は相変わらずガッチリと捕まれて引っ込められない。

「ちょっと、待っていて」

肩を押してソファに座らされる。
有無を言わさない眼光に無言で従えば頷く濃い青い瞳がゆるりと細められて、え、と思う間もなく近づいた。

「いいこだね」

視界を掠めて通り過ぎた青い瞳を追う前に耳元に潜められた声を落とされる。
男の声に甘さなんてもんを感じ取って瞬間、逃げるという選択肢が浮かぶも実行に移す前に耳元に落とされた湿った感覚が触れた。

「フっ・・?!」

ピシッと固まった目の前にもう何も無かったかのようににっこりと陽だまりのように微笑んだフレンの顔があって思わず仰け反る。
そんなこちらの動揺に気が付いた様子も無くすっと立ち上がった相手は、ぽんっと1回頭に手を置いて棚の前に移動して何かを持って戻ってきた。

「ほら、手を出して」

お前は王子か騎士かと言いたい程に自然に目の前に跪いた相手が僅かに見上げる低さでこちらを見上げてくる。
目の前で白い耳がピンとたっていて、それを視界に入れなければどこぞの貴族様かいやでも所作は執事か、今にも足に靴を履かせてきそうな勢いである。
うっかり手でも差し出そうものなら指輪でも嵌めてきそうなシチュエーションに怖くて手を出せないでいれば、その眉が僅かに寄った。

「人からもらったものだけど、オーガニックなもので出来ているから何にも心配はいらない筈だ・・ほら」

何を言っているのかと思えば、片手に持ったチューブから白いクリームをもう片方の手に出している。

「・・ハンドクリーム・・?」

「そうだ。無香料だし・・、こういうのは苦手かい?」

気遣うようにひそめられた眉に慌てて首を振った。
何となくそういうものは女性向けだと思って使ってみたことはなかったけれど、手が荒れているのを見て持ってきてくれたのに邪険にするほど苦手というわけではない。

「良かった」

にっこり笑ったフレンに手をそっと出せば、まるで女性に対するように手を取られてそっと片手ずつクリームを塗り込められていく。
指に出来た裂傷に沁み込ませるように丁寧にクリームをのばしていくその瞳が真剣で、何だか居たたまれない。
気恥ずかしい気持ちで早く終わってくれと視線を無駄にうろつかせていれば、不意にくんと指先を掴まれて軽く引っ張られた。

「フレン・・・?」

中指を軽く摘まんで引っ張られたと思えば、少し悪戯そうに細められた視線がこちらから掴んだ手に向けられる。
くるりと甲を上にされて引く間も無く左手の薬指にキスを落とされた。

「君のここに・・」

言って、指の付け根に吸い付かれる。

「何して」

「僕の物だっていう証を付けたいな」

「ヤメロ」

全力で指を引き抜いた。
クリームを塗りたくられた両手はちょっとべたべたしている。
う、と思いつつ、自分の手荒れを気にしてくれた手前落とすわけにもいかず。
でもこんなになるんだったらもうちょっと前に止めてもらいたかったかもしれないと、目が無意識にふき取るものを探す。

「少ししたら浸透するから、それまでは我慢してくれ」

目線でティッシュをさがしていたのを察した相手は苦笑いをしながらそれを遠ざけた。
ねとつく己の両手を無言で見つめる。
ふと、熱い視線を感じて無視し切れずに目の前にしゃがんだままのフレンを見た。

「・・・今度は何」

「いや・・、」

言いよどんで視線を逸らして妙な咳払いをする、そのこちらに向けられた金髪の間に覗く耳の先が少し赤い。
その反応は何だと、何か嫌な予感がすればチラとこちらを向いた目が次にこちらの手を見る。

の手にその、白いクリームを塗っていて」

「・・おい、ま」

待て、と遮る前に、はぁといやに熱っぽい息を吐いたフレンが続ける。

「すごく、その・・イケナイことをしている気分になったよ」

「・・・・・」

帰ろう。
そのイケナイことを実行に移される前に速やかに帰ろう。
目元をほんのり赤らめた発情ウサギ野郎を前にして心に決めた。



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