白うさぎのフレン



「いや、えっとさ・・お前んとこのうさぎって・・うさぎだよな?」

「は・・、何だよいきなり」

いきなり肉食宣言されたんだけど。



金色の髪に白くて長い綺麗なお耳。
髪を撫でればふわふわとして、血管が赤く透けた長い白い耳がひょこひょこと揺れる。
可愛い。
いや、うさぎってそんな可愛いとか思ったこと今までなかったけど、こいつは・・まぁ可愛いなって思った。
こういうやつだったら、俺も飼ってみたいとかうっかり思っちゃいそうなそんな出会いだったのだが。

「へえ、フレンって言うんだ。よろしくな、フレン」

触ってると何だかくせになるふわふわの金髪を梳きながら、初めて会ったそいつに声をかける。
撫でる手の平の下で頭が動いて手を離せば、晴天のようにキラキラとした青い瞳がこちらを見上げていた。
しげしげとコチラを観察するような瞳に、少し気恥ずかしい気分になってくる。
真っ直ぐで純粋そうな青くて綺麗な瞳。
良く晴れた空の濃い青は、見てるこっちにもどこか清々しい気持ちを抱かせた。

「?あ、俺の名前は・・」

言いかけた俺に向かって、フレンという金髪のうさぎはにっこりと笑う。

「よくユーリから聞いているよ。、だろう?」

穏やかで、でも良く通る声がこちらに向かって発せられた。
思わずこちらも瞬きをしてまじまじと相手を見てしまう。
うさぎって、話には聞いていたけどこんなに出来た性格なのだろうか。
どこか王子様然とした見た目と相まって、女子に囲まれてモテモテな様子が容易に想像出来てしまう。
あれ、ちょっとムカつくな・・、いや待て待て相手はうさぎだって。

?どうかしたかい?」

「あ、いや何でも」

言いつつ、やけにニコニコと嬉しそうな相手から目をそらした。

「っ、?!んっ、何」

視線を離した瞬間、下していた手をそっと握られて何故かさわさわと撫でられて背筋がぴくりと震える。
びっくりして見下ろせば、俺の手をとったフレンが何故か仰向けにしたり手の甲を指で撫でたりと謎の行動をとっている。
うさぎなりのスキンシップなのだろうか。
くすぐったくはあるが、放して欲しいと思うほどの不快感は無い。
無いのだが・・・。

「いや、フレンの手とそんな変わらないと思うんだけど・・」

余りにも熱心に撫でさすられてさすがに戸惑いつつ、フレンの両手に挟まれた自分の手を引き抜こうとする。
途端、きゅっ、と決して痛いほどの強さは無いが振りほどけない程度の力が込められた。
え、何でだ。

「そんなことないよ。の手は何だか触り心地が良くて・・かわいいと思う」

「・・、は」

人の手を散々弄りまくったと思えば、今度はかわいい発言だ。

「いやいや、野郎の手だって。骨ばってるし・・ちょっとまあフレンの手より小さいかもしれないけど、かわいい、とかそれは無いだろ」

言いつつもまだなでなでを続けているフレンから己の手を取り戻そうとさりげなく手を引こうとするがどうしても出来ない。
軽く力が込められただけで、ガッチリと拘束されたかのようにそれ以上引くことが出来なくなってしまう。
うさぎのくせに馬鹿力過ぎじゃないだろうか。
思わず、その耳偽物なんじゃないだろうかと頭の先でひょこりひょこりとたまに動く耳をじっとりと見つめてしまう。

「・・・、かわいいよ」

フレンが繰り返し言うものだから、さすがにむっとしてその瞳を睨みつけようとした。

「!・・・っ」

が、失敗した。
底が見えないくらい透き通り過ぎた清冽な青い淵を覗き込んでしまったかのような、真っ直ぐな視線に絡め取られる。
こちらをじっと見たまま、フレンの口角がふっと上げられた。
何事かと思う間もなく、その長い金の睫がゆるやかに伏せられる。
そっと壊れ物を扱うかのように持ち上げられると同時に、近づく俯いた顔が手の平に触れた。

「!?何、して」

・・ちゅっ

人の手と手首をガッチリつかんだまま、零れ落ちた金髪の下から密かなリップ音が鳴る。
手の平にかかる吐息。

「!離せって・・!・・あ、何、っ」

ちゅ、ちゅと唇が何度も触れてから不意に手の平から窪みを辿る様にぬるりと湿った感触が這う感覚に、背筋がぞくりと震える。
腕がくっと引かれて濡れた唇が腕の内側に押し付けられて、そのままツツ・・と手首の内側まで登っていく。
時折伸びる舌先がくすぐるように手首をなぞり上げて、変な声が出そうになるのを必死にこらえた。
手は相変わらずフレンが捕えたままで引き戻せない。
その光景を見ていられずにぎゅっと目を瞑れば、暗闇の向こうからふっと小さく笑うような吐息が濡れた肌を撫ぜた。

「ほら、かわいい」

馬鹿みたいに繰り返すフレンに何か言い返そうと開いた視界はどうしてか少しぼやけていて、その向こうで心底嬉しそうに笑うフレンの細めた青い瞳と目が合う。

。もっと、食べさせて・・?」

言って、手首の内側に開いた口を寄せる。

「や、ちょっと待」

ストップをかける前に、はぁっと空気を吸い込むような音。
そして。

「っは、んむ」

かぷり、と手首の内側に固い歯が当たる。
やんわりと鋭く押し付けられて動けない手首に、じわじわと血が集まっていくような感覚。
きゅっと食むように歯を寄せられてから、少しだけ離れた口はそこにまた唇を寄せていく。

「んんっ・・、っ」

歯を立てられるより強い刺激に薄い皮膚がピリッと小さく痺れる。
吸い付いたそこを舌先でくすぐるようになぞられて、思わずかくんと姿勢が崩れた。

「!っと・・、」

掴んでいた手首ごと引き寄せられた体が、座っていたフレンにのしかかるような体勢で受け止められる。
慌てて起こそうとした体は腰に回った手に阻まれた。
視界の端で揺れるフレンの金髪と、思わずしがみ付いてしまった肩のがっちりとしたその体格に尚更焦る。
くすりと小さく笑うフレンの吐息が耳に近い。

「・・震えてる。ごめん、怖がらせたかな」

この期に及んで何を言ってるんだと言ってやりたいが、若干パニックに陥ってる口は意味の無い無駄な呼吸を繰り返してしまう。

「最初っからがっついちゃいけないよね。今日はちょっと我慢しようかな」

「・・う、うん、そうしてくれれば・・俺も何か有難い・・かな、・・」

何かもう色々あまりにも急な出来事に頭の処理能力が追い付かない。
取りあえず止まってくれてほっとしている体がそっと離される。
離れれば見えるその物腰穏やかな笑顔。
だが、もうその笑顔がただの穏やかな顔で無いことが実地体験済みである。
何を言われるか、身構えて固くなる体をほぐすように背中をそっと撫でられる。

「ごめんごめん。ちょっと嬉しくなっちゃったみたいだ」

「そ、ソウデスカ」

うさぎってこんな喜び方するっけ?と頭の中はマーブル模様になりつつある。
そんな俺の瞳を、細められた晴天の青が覗き込む。

「続きはまた今度、だね」

ね?と念押しするような笑顔と共に、背中を撫でる手に拘束の意志を示すような力がじわりと感じられて、慌ててこくこくと頷いた。
途端にふんわりと嬉しそうに微笑まれる。

「楽しみにしているよ、

首を微かに倒してこちらを見ながら爽やかに宣言された。
次など無い、とは言えそうにない雰囲気だった。



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